「時代劇で観た場面が甦るよう。組紐のこの仕草にずっと憧れていました」──藤間さん
「糸玉と丸台が奏でるカランカランという響きも心地よいですね」(藤間さん)。リズミカルに動く藤間さんの手もとから、心躍る様子が伝わるようです。
「では、実際に帯締めを組んでみませんか」という道明さんの提案に顔をほころばす藤間さん。
「実は子どもの頃に観た時代劇の、組紐を生業とする人のシーンが強く記憶に残っているので、今日は楽しみにしてきたんです」と声を弾ませます。
鉛を芯に据えた木製の糸玉。組み方で大小を使い分け、その重みを利用して目の詰まった美しい組紐に仕上げる。
今回、挑戦したのは藤色、深藍、淡黄色の3色の糸で斜めの模様が小刻みに浮かび上がる奈良組。丸八つ組の組紐を芯材として、4本ずつ4か所のパートに分かれた糸を、対角線状に回転させながら組み上げます。
糸玉の重みを手で感じながら組んでいく
集中して黙々と、小気味よいリズムで丁寧に組んでいく藤間さん。手なりに添わせるように4本の糸をずらす仕草も、次第に堂に入って。「組紐には組んだ人の性格が表れるといいますが、この端正な組み目はとても初めてとは思えませんね」と道明さんも驚くほどです。
「単純な動きのように見えて、糸を台に掛ける一手一手の力加減が目の美しさを左右します」と道明さん。その言葉どおり、藤間さんが刻む安定したリズムに、精緻な一目一目が組まれてゆきます。
「自然と無心になっていました。自分で組んだ帯締めは、ことのほか可愛く思えますね。うっかり目を飛ばしてしまった部分もよい思い出になります(笑)」。
自作の帯締めに合わせて、ピンク味を秘めたブルーグレーの紬と、井桁菱の中に可憐な草花文をあしらった帯をコーディネート。
ようやく組み上げた初めての帯締めは、ご覧の写真のようにコーディネート。“帯締めは帯が際立つように合わせる”というお義母様から受け継いだ美学を今様のセンスで体現する、新たな小物のスパイスが藤間さんの引き出しに加わりました。