最後の言葉は「あ、あ、あ」。約束を守ってくれた母
2020年8月、何度目かの腰椎圧迫骨折で入院した頃には認知症もかなり進み、新田さんの頭に“終末期”の言葉がよぎります。最期は自宅で、と21年のお正月は家族で祝いました。そして3月23日。ひで子さんは朝からゼイゼイと口で息をして苦しそうでした。「明らかにいつもと様子が違うのに、私は仕事に行こうとしたんです。夕方には戻るから大丈夫だろうと。でも夫が止めてくれたおかげで看取ることができました。心のどこかで私は、母に限って死なないと思っていたのでしょうか、そう思いたかったのでしょうか……」。
臨終の間際、ひで子さんはつぶっていた目をぱっと開け、ベッドサイドの新田さんと兄を確認すると、「あ、あ、あ」と3回。息は続きませんでした。「『ありがとう』の『あ』だったはず。母は常々『私が死ぬときは必ずありがとうっていうね』といっていました。約束、守ってくれたんです」。
現在、新田さんの仕事の大半を介護関係の講演や取材、活動が占めています。「母が私に新たな使命を与えてくれた。人の役に立てる仕事ができるのも母のおかげ」と新田さんは、密度の濃い6年半を与えてくれたひで子さんに心から感謝しています。
介護を乗り切る3か条
1「言いふらし介護」を実践する愚痴や悩みは一人で抱え込まず、周囲に打ち明ける。「大変なのは自分だけじゃない」と励まされ、有益な情報も集まってくる
2 頑張って報われないから腹が立つ。なら、頑張らなければいい「私たちも我慢しているのだから母にも少しだけ我慢してもらおう」と手を抜いたら気が楽になった
3 ケンカになりそうだったら、その場を離れる険悪なムードになったら母の部屋を出る。声の届かない離れた場所で感情を爆発させ、気持ちをリセットさせた
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