「手術支援ロボットによる遠隔手術」
技術面では実用化が目前に。未来の手術の切り札になるか
日本から約5000キロ離れたシンガポールとの手術も成功腹部に小さな穴を複数か所開け、そこから内視鏡や手術器具を挿入して手術を行う腹腔鏡下手術。身体への負担が少ない低侵襲手術として普及しています。「この手術の進化形が“ロボット支援手術”です。執刀医は手術台から離れた場所にあるサージョンコックピットに座り、内視鏡の立体画像を確認しながら手術器具が取り付けられたアームを遠隔操作し、精緻な手術を行います」と宇山一朗先生は解説します。
【今月の解説者】
藤田医科大学医学部 先端ロボット・内視鏡手術学講座 主任教授
宇山一朗先生 
うやま・いちろう 世界初の腹腔鏡下胃全摘術をはじめ1000例以上の腹腔鏡下手術を実施。2009年、日本で初めて消化器外科領域にロボット支援手術を導入した第一人者で国内最多の症例数を誇る。写真／遠隔手術の試験にも積極的に使われている手術支援ロボット「hinotori」のサージョンコックピットにて。
日本では750台の手術支援ロボットが稼働し、保有数は米国に次いで世界第2位です。「急性期病院の約8割に導入され、特別な医療機器ではなくなりつつあります」。2020年には国産初の手術支援ロボット「hinotori（ヒノトリ）」が誕生し、国内で65台が稼働しています。
手術支援ロボットは、戦場で負傷した兵士に遠隔手術を行うことを目的に米国で開発が始まりました。全国に普及した今、日本の外科医たちが挑戦しているのが「手術支援ロボットによる遠隔手術」の臨床応用です。
藤田医科大学（愛知県豊明市）では、21年5月に約30キロ離れた本院と分院を専用回線でつなぎ、hinotoriによる遠隔手術を国内で初めて実施。さらに23年4月には約300キロ離れた同大学と東京の施設で、同年10月には約5000キロ離れた同大学の施設とシンガポール国立大学との間で実施した遠隔手術にも次々と成功しています。
「いずれも人との類似性が高いブタを用いた試験ですが、遠隔操作のタイムラグも許容範囲内で、技術的には臨床応用しても問題がないレベルに到達しています」。今後、実用化で課題となるのは、専用回線の整備と維持費用、サイバーセキュリティ対策、責任所在に対する法的整備などの社会環境です。「課題を解決し、実用化するには国家プロジェクトとしての取り組みが必要です」。
手術支援ロボットを用いた遠隔手術の未来図
2つの病院の手術室を専用回線でつなぎ、指導医が若手医師を遠隔サポートしながら手術を行う。術者1と術者2の間でロボット操作権を移行できるため、難易度が高い箇所は指導医が執刀するなど安全面も確保できる。
遠隔手術は、未来の医療にどのような変化をもたらすのでしょう。「AI（人工知能）が過去の症例を学習することで、簡単な手術はAIが担当するようになるかもしれません。しかし、複雑な手術や高度な判断が必要な場面では依然、人間の力が重要です。その際、離れた場所から指導医が若手外科医をサポートできる手術支援ロボットによる遠隔手術は威力を発揮することでしょう。そうなれば世界のどこにいても質の高い手術を受けられるようになるのです」と宇山先生は予測します。
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