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岐阜・加茂「白扇酒造」にみる“美醂(みりん)の家”の正月迎え、いまむかし

2024.12.26

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〔特集〕岐阜・加茂「白扇酒造」にみる “美醂(みりん)の家”の正月迎え、いまむかし 伝承の技術、伝来の味を守る家の正月迎えの様子を紹介した1997年1月号掲載の特集「味の名家のおせちとお雑煮」。28年前に訪れた岐阜「白扇酒造」の加藤家を再訪し、昔の写真とともに、今の正月迎えの姿を追いました。

・特集「“美醂の家”の正月迎え、いまむかし」の記事一覧はこちらから>>

今も昔も餅つきは12月28日。正月支度が始まる

餅つきはこの場所で12月28日に行うのが、3代目夫人から口伝された加藤家の決まり。かまどでもち米を蒸し、餅つきが始まると、家族や従業員から威勢のいい掛け声が上がった。

餅つきはこの場所で12月28日に行うのが、3代目夫人から口伝された加藤家の決まり。かまどでもち米を蒸し、餅つきが始まると、家族や従業員から威勢のいい掛け声が上がった。

江戸末期にみりん屋として創業し、明治32(1899)年に清酒造りも始めた「白扇酒造」。蔵のある川辺町は、かつては美濃路と飛驒路を結ぶ交通の要衝で、飛驒川を利用した木曽檜などの集散地として栄えました。緑豊かな山、清らかな水に恵まれた地で、本みりん「福来純(ふくらいじゅん)」と、清酒「黒松白扇(くろまつはくせん)」を造っています。

売り場に改装された蔵の2階にある大きな神棚に、餅飾りをお供えする。大神神社、松尾大社など、酒造りの神様が祀られている。

売り場に改装された蔵の2階にある大きな神棚に、餅飾りをお供えする。大神神社、松尾大社など、酒造りの神様が祀られている。

「みりんの原料は、もち米、米麴、米焼酎です。年末に行う餅つきにはみりんに使うのと同じ上質なもち米を使い、それを丁寧にせいろで蒸してから石臼でつきます」と4代目当主の加藤孝明さん。2022年に95歳で天寿を全うした3代目夫人の郁子さんから、家の行事の決まり事を受け継いだのは、孝明さんの長女、久美子さん。


「祖母からは、餅つきをするのは12月28日か25日で、29日にしてはならない、もち米を蒸すかまどの火口は、この地の氏神様、太部古天(たべこてん)神社がある北向きに、と習いました」。

ついた餅はお供え用に皆ですぐに丸餅に。一つずつ、心を込めて丸めているのは、5代目の加藤祐基さんの奥様、咲さん。

ついた餅はお供え用に皆ですぐに丸餅に。一つずつ、心を込めて丸めているのは、5代目の加藤祐基さんの奥様、咲さん。

餅つきが終わった後には、石臼と杵にも餅飾りをお供えし、紙垂(しで)をつけた松飾りを添える。敷地内にある社にもお供えし、元旦に皆でお参りする。

餅つきが終わった後には、石臼と杵にも餅飾りをお供えし、紙垂(しで)をつけた松飾りを添える。敷地内にある社にもお供えし、元旦に皆でお参りする。


祖母の教えに従って、12月28日、蔵の中庭で、家族、従業員が集まって餅つきが始まりました。みりん・酒造りに最も大切な井戸、神棚、そして仕事に使う道具類などには丸餅を大晦日にお供えし、元旦にはそれらすべてに手を合わせるのが決まりです。一方、のして切った角餅も作り、お雑煮に入れていただきます。

28年たっても変わらない母屋2階の座敷で迎える元旦

【1997年】中央が3代目で当時会長を務めていた故・加藤寛明さんと故・郁子さん夫妻。左が4代目現社長の加藤孝明さんと成美さん夫妻。右が当時の専務、加藤英晃さん、幾恵さん夫妻。

【1997年】中央が3代目で当時会長を務めていた故・加藤寛明さんと故・郁子さん夫妻。左が4代目現社長の加藤孝明さんと成美さん夫妻。右が当時の専務、加藤英晃さん、幾恵さん夫妻。

【2025年】前列中央が4代目社長の加藤孝明さん、左が長男で5代目副社長の祐基さん、右が次男の真基さん。後列左から、5代目夫人の咲さん、長女の久美子さん、4代目夫人の成美さん、真基さんの奥様の真梨子さん。中列左から、5代目のご子息の竜基さん、紘基さん、晃基さん、真基さんの長女のひま莉さん。

【2025年】前列中央が4代目社長の加藤孝明さん、左が長男で5代目副社長の祐基さん、右が次男の真基さん。後列左から、5代目夫人の咲さん、長女の久美子さん、4代目夫人の成美さん、真基さんの奥様の真梨子さん。中列左から、5代目のご子息の竜基さん、紘基さん、晃基さん、真基さんの長女のひま莉さん。

元旦に母屋2階の座敷に一家が集まり、おせち料理を囲むのは、今も昔も変わりません。3代目で、1997年には会長を務めていた寛明さん、奥様の郁子さんは亡くなりましたが、孝明さんの長男で5代目を継ぐ祐基さんと、次男の真基さんが、奥様、そして元気なお孫さんたちとともに集まり、賑やかな正月迎えになりました。家族写真を撮影したのは座敷の次の間で、28年たった今でも飾られている、郁子さんが書いた屛風の前に家族一同が揃いました。

「以前は冬の酒造りをする時期には南部杜氏が10人ほど蔵に来て、年末年始も住み込みで働いていました。その頃は、大晦日まで酒造りをして、元日だけ休んで2日には早朝から初売りで仕事始め。蔵人たちの分も合わせて、餅も10臼近くついていたから大変でした。今は若い社員たちが酒造りをしていて、12月30日から1月4日くらいまではお休みにしています。時代の流れは止められませんから、昔のままに続けられることは続け、変えるべきことは変えていかなければなりません」と、孝明さんは話します。

屠蘇酒は、自社で醸した3年熟成の本みりん、福来純に屠蘇散を加えて一晩おいたもの。3代目夫人の郁子さんが輪島に注文した松蒔絵の屠蘇器でいただく。

屠蘇酒は、自社で醸した3年熟成の本みりん、福来純に屠蘇散を加えて一晩おいたもの。3代目夫人の郁子さんが輪島に注文した松蒔絵の屠蘇器でいただく。

元旦には午前零時に氏神様である太部古天神社にお参りし、朝には家の神様にお参りします。そして座敷に一同集まり、新年の挨拶をしてから家族で屠蘇酒をいただき、角餅のお雑煮とおせちで新年を祝います。その後、全員で記念撮影。今年も家族の歴史が刻まれ、白扇酒造の新たな一年が始まります。

大神神社から届いた杉玉が下がる、歴史を感じさせる外観。

白扇酒造(はくせんしゅぞう)
住所:岐阜県加茂郡川辺町中川辺28
TEL:0574(53)2508

(次回へ続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年01月号

家庭画報 2025年01月号

撮影/蛭子 真、浅井憲雄 取材協力/萬 眞智子

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