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山伏に誘われ、東北有数の山岳信仰の聖地・出羽三山の旅へ

2024.12.24

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〔特集〕神々の気配を感じる 聖地・開運の地へ 聖地神の臨在を感じさせる場、神に祈りを捧げる場は、常に霊験あらたか。新しい一年が生まれる正月を機に、心新たに神々のもとを訪ね、深い感謝と祈りを捧げることで開運を祈願します。前回の記事はこちら>>

・特集「聖地・開運の地へ」の記事一覧はこちらから>>

出羽三山 修験道の聖地

羽黒山 五重塔

国宝「羽黒山 五重塔」は東北最古の塔で、現在の塔は約600年前に再建されたもの。高さ29メートルの素木(しらき)造りで、杉並木と美しく調和する。2024年9月末、20年ぶりの杮(こけら)葺き屋根工事が終了。


修験道は、山岳信仰を根幹とし、神道や仏教が入り混じって成立した日本独自の信仰の形。羽黒山、月山、湯殿山から成る出羽三山は、その修験道の山として、1400年以上もの時を超えて、古の日本人の信仰心を今に伝えます。山形市・宝珠山 立石寺とともに、東北有数の山岳信仰の聖地を訪ねました。

羽黒山 五重塔──出羽三山神社【山形県鶴岡市】
山伏に聞く修験の教え

羽黒山の石段参道は生まれ変わるための“産道”

羽黒山の石段参道は生まれ変わるための“産道”


山頂までの2446段の参道の中で、最も急こう配な二の坂にて。石段には盃や蓮などの絵が彫られているところが全部で33か所あり、そのうち18か所見つけることができると、願いが叶うという。 羽黒山の門前町・手向(とうげ)地区は、かつて300以上もの宿坊が軒を連ねていた宿坊街。現在も26の宿坊がある、出羽三山詣での拠点です。

参道でほら貝を吹く早坂さん。修行中の言葉に代わる合図で、魔除けや祓いにもなる。結界となる首にかけた注連も山伏装束に欠かせない。

参道でほら貝を吹く早坂さん。修行中の言葉に代わる合図で、魔除けや祓いにもなる。結界となる首にかけた注連も山伏装束に欠かせない。

「宿坊 大進坊」の17代目として国内外の修行者と参拝者を迎えるのが、山伏の早坂一広さんです。

「羽黒山は自然崇拝に始まった修験道の山。山伏は“山に伏す”と書くように、私たちはこの山を道場として身を置き、他者のために祈ることが修行になります。明治の神仏分離令も乗り越え継承されているのは、何より山への祈りが基盤だから。枠組みが変わっても山がある限り、信仰は絶えません」と話します。

三山の山菜や果物を使った「大進坊」の精進料理。山伏の自給自足の生活の中で育まれた食文化で、今でも各宿坊が手作りしている。

三山の山菜や果物を使った「大進坊」の精進料理。山伏の自給自足の生活の中で育まれた食文化で、今でも各宿坊が手作りしている。

修行中は一言も発さないのが基本だそうですが、唯一山伏の精神が表れている言葉があるといいます。

「それは“うけたもう”です。“受け賜る”のことで、私たちはすべてを受容します。ここで生まれ変わることができるのは、変化や新たな気づきを受け入れてこそ」。

山への信仰心と揺るがぬ精神文化が脈々と継承されています。

冠木(かぶき)門に注連を張った「大進坊」。

冠木(かぶき)門に注連を張った「大進坊」。

宿坊 大進坊
住所:山形県鶴岡市羽黒町手向字手向95
TEL:0235(62)2372
11月~4月休業 1泊2食付き1室9900円~

生まれ変わりの三山巡り

羽黒山(はぐろさん)を現在、月山(がっさん)を過去、湯殿山(ゆどのさん)を未来と見立て、この順に三山を巡礼すると、生きながらにして生まれ変わることができるといわれています。羽黒修験では「三関三渡(さんかんさんど)」といわれ、全国の修行者がこの行に臨みます。

〔過去〕月山

写真/島村秀一〈アフロ〉

写真/島村秀一〈アフロ〉

出羽三山の中で最も高い標高1984メートルの主峰。魂は高いところへ行くと考えられ、先祖供養の霊山として信仰された。山頂の「月山神社」では、天照大神の弟で夜の世界を統べる月の神である月つくよみのみこと読命をご祭神として祀り、東北で唯一の官幣大社であった。希少な高山植物も多く、山頂からは絶景が広がる。毎年7月1日に山開きが行われ、9月中旬閉山。

〔現在〕羽黒山

写真/ぺっぱー〈PIXTA〉

写真/ぺっぱー〈PIXTA〉

約1400年前、第32代崇峻(すしゅん)天皇の第1皇子の蜂子皇子(はちこのおうじ)が開山。出羽三山の信仰が始まった山。上・山頂の重要文化財「羽黒山三神合祭殿」。三山を祀り、合わせて参拝できる。合祭殿の前の「御手洗池(通称鏡ヶ池)」からは平安時代後期作の銅鏡が多数出土していて、社殿ができる前はこの池に祈りを捧げていたことがわかる。

1618年に建てられた「鐘楼」は羽黒山山頂で最も歴史の長い建造物。

1618年に建てられた「鐘楼」は羽黒山山頂で最も歴史の長い建造物。

「五重塔」の近くにあって、樹齢1000年を超えるご神木「爺杉(じじすぎ)」。通年開山。

「五重塔」の近くにあって、樹齢1000年を超えるご神木「爺杉(じじすぎ)」。通年開山。

〔未来〕湯殿山

出羽三山の奥宮とされる「湯殿山」は、“語るなかれ”“聞くなかれ”が原則。本宮には、裸足になってお祓いを受けてからでないと参拝できず、撮影も不可。神域として堅牢に守られている。山頂のご神体に裸足になって登ることができるという、神と出合える神秘的な霊山。毎年6月1日に山開きが行われ、11月上旬閉山。

出羽三山神社
住所:山形県鶴岡市羽黒町手向字手向7
TEL:0235(62)2355

信仰心が息づく風光明媚な名刹
立石寺(りっしゃくじ)【山形市】

「境内の中でも、特に根本中堂と奥の院が私にとって聖地」と話す清原正田住職。

「境内の中でも、特に根本中堂と奥の院が私にとって聖地」と話す清原正田住職。

「山寺」の通称で知られる「宝珠山 立石寺」は、860年に天台宗開祖の最澄の弟子であった慈覚大師(じかくだいし)(円仁〔えんにん〕)によって開山されました。

慈覚大師を祀る「開山堂」(右)と、如法堂で書経された法華経を収める「納経堂」(左)。真下に慈覚大師の入定窟があり、1948年の調査で大師と思われる人骨と大師像らしき彫刻が見つかっている。

慈覚大師を祀る「開山堂」(右)と、如法堂で書経された法華経を収める「納経堂」(左)。真下に慈覚大師の入定窟があり、1948年の調査で大師と思われる人骨と大師像らしき彫刻が見つかっている。

「垂水遺跡」の近くにある「円仁宿跡」。崖のくぼみを修行の際の宿にしていたといわれている。

「垂水遺跡」の近くにある「円仁宿跡」。崖のくぼみを修行の際の宿にしていたといわれている。

俳人・松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蟬の声」を詠んだ地としても知られています。麓から山頂までは1015段の石段の参道1本だけで、道幅が14センチしかないところも。慈覚大師の足跡を辿って参拝することができます。

1356年再建の根本中堂。ブナ材の建築物としては日本最古で重要文化財。

1356年再建の根本中堂。ブナ材の建築物としては日本最古で重要文化財。

「不滅の法灯」。根本中堂の内陣にあって、1メートルほどの距離から見ることができる(内陣参拝1人200円)。

「不滅の法灯」。根本中堂の内陣にあって、1メートルほどの距離から見ることができる(内陣参拝1人200円)。

参道の中腹にある「弥陀洞(みだほら)」。風化によって大岩に阿弥陀如来の形が作られたといわれ、故人の供養のための岩塔婆(いわとうば)が彫られている。

参道の中腹にある「弥陀洞(みだほら)」。風化によって大岩に阿弥陀如来の形が作られたといわれ、故人の供養のための岩塔婆(いわとうば)が彫られている。

清原正田住職は、「なぜ延暦寺から約700キロも離れたこの地を選んだのか、謎は多いですが、その教えは確かに守られ続けています」といいます。

「一つが開山以来絶えず灯され続けている『不滅の法灯』。延暦寺から分灯されたという貴重な記録が残っていて、かつて延暦寺が焼き討ちにあった際には立石寺の法灯が向こうへ渡りました。

断崖にせり出すように建てられた「五大堂」からは、里山の向こうに山々が連なる絶景が広がる。

奥の院「如法堂」。写経の修行の場。慈覚大師が中国での修行中に持ち歩いたという釈迦如来と多宝如来を本尊とする。

奥の院「如法堂」。写経の修行の場。慈覚大師が中国での修行中に持ち歩いたという釈迦如来と多宝如来を本尊とする。

また如法堂(にょほうどう)に残されていた、慈覚大師が確立した写経の修行『石墨草筆一字三礼』を今も継承しています」。大切に守られてきた慈覚大師の教えが、絶えず人々をこの地へと誘います。

宝珠山 立石寺
住所:山形県山形市山寺4456-1
TEL:023(695)2843
参拝時間:8時~15時(4月~11月は16時まで)
入山料:大人300円

(次回へ続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年01月号

家庭画報 2025年01月号

撮影/大泉省吾 協力/羽黒山観光協会 ●特集内の表記、ふりがなは各神社、著者の指定に準じます。

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