アルビオンアート・コレクション 美と感動の世界 比類なきジュエリーを求めて 第3回 歴史的ジュエリーの世界的なコレクターである有川一三氏の「アルビオンアート・コレクション」。宝飾史研究家の山口 遼さんの視点で、宝飾芸術の最高峰に触れる連載の第3回は、美しい天然真珠のジュエリーをご紹介します。
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真珠は本来、丸くない
いきなり不遜な話になりますが、どうも我々日本人は、真珠の本当の美しさ、素晴らしさをわかっていないような気がするのです。そんなことはない、大抵の女性は真珠のジュエリーを1つ、2つは持っていると反論されそうですが、それはおそらく養殖真珠のこと。100年ほど前に日本で真珠養殖が成功して以来、真珠は日本の女性にとって最も身近なジュエリーとなりました。しかし身近にあるものは、ともすれば軽視されがちです。皆さんは白くて丸いものが真珠だと思っていませんか?
本来、真珠は丸くないのです。丸くなったのは、丸い核を入れたからです。ここでは、丸くない天然真珠の世界をのぞいてみましょう。
Vol.3
天然真珠の素晴らしさ
最初はティアラです。使われている真珠を見てください。飾りの先端についている7個の真珠は、見事な大きさと素晴らしい光沢です。しかしどれも丸くはない。下の部分の大きな真珠は、おそらくハーフパールといって、貝殻に付着してできたものを横にカットしたものです。
素材:ゴールド、シルバー、天然真珠、ダイヤモンド
製作年:1830年頃
製作国:ドイツ
プリンス・オブ・ハノーヴァーティアラハノーヴァー家旧蔵の来歴を持つティアラ。大きく希少な天然真珠を主役にしたデザインが、王族らしい華やかさと威厳を感じさせる。
次は指輪です。真ん中の麦の花束を見てください。ブルーのエナメルの台座に、極端に小さな真珠でブーケを描いています。真珠業界ではケシ、あるいはシードパールと呼ばれる極小の真珠で、丸いといえば丸いが、小さくてよくわかりません。これは実に不思議な採れ方をする真珠で、大きな真珠が採れる貝の肉の中に、自然にたくさん生まれます。あまりに小さいので、1つずつ取り出すことは不可能で、まず肉の部分を押しつぶして全体を流水につけます。真珠は肉よりも重いので、やがて流水の下に真珠だけが残るというわけです。小さすぎて穴を開けることはできず、丸ごと接着しています。
素材:ゴールド、シルバー、天然真珠、エナメル、ダイヤモンド
製作年:18世紀後期
製作国:イギリス
リング
“ジャルディネッティ”18世紀に親しまれた花モチーフを、1ミリにも満たないようなごく小さな天然真珠で表現。ロイヤルブルーのエナメルを背景に、白いブーケが可憐な表情を奏でる。パール、彫金が施されたゴールド、そしてオールドカットダイヤモンドの縁取りがさらなる輝きを添えている。
続いて、アール・ヌーヴォーの傑作、フーケ作のブローチです。海蛇の下に横向きに並んでいる12個の真珠に注目してください。表面に皺が多く、異様なまでに横長です。これはアメリカのミシシッピ川で採れる淡水の貝から生まれる真珠で、真珠は貝の肉に入っているのではなく、二枚貝の蝶番の隙間で生まれます。ですからこんな形になる。自然の不思議ですね。
素材: ゴールド、エナメル、モスアゲート、エメラルド、天然真珠
製作年:1902年
製作国:フランス
コルサージュオーナメント“有翼の海蛇”ジョルジュ・フーケ作。しなやかに体をくねらせる有翼の海蛇が海藻を咥えているようなデザインが極めて独創的。モスアゲートの頭部の周りには、カリブルカットのエメラルドが。海藻の白色部が淡水パール、先端はバロックパール。
最後に、真珠というよりも真珠になるはずのものを。あまりにも貝殻に近いところで生まれたために、貝殻に付着して凹凸が出来てしまったマザーオブパールを利用したペンダントの傑作です。カラフルなエナメルを使って、母貝に出来た凹凸の中に、羊飼いと羊を2匹、空飛ぶ鳥とその卵の入った鳥の巣、緑の樹木などを描いています。この母貝はその大きさからして、白蝶貝のものでしょう。おそらく19世紀末の頃、オーストリアで作られたものと思われますが、この素材を見てこのデザインを思いついた宝石商には頭が下がります。
素材: ゴールド、エナメル、ダイヤモンド、天然真珠、マザーオブパール
製作年:1880年頃
製作国:オーストリア (推定)
ペンダント
“聖ゲオルギウス”表裏両面に異なるテーマを描いたペンダント。表面にはマザーオブパールのプレートに牧歌的な風景が、裏面にはドラゴンを倒す聖ゲオルギウスがエナメルで表現されている。のどかな風景と荒々しい情景というコントラストが目を引く。
どうですか、真珠は白くて丸いものではないことがおわかりいただけたでしょうか。極めて複雑で、唯一無二の美しさがある。素晴らしいですね。
(次回へ続く)
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