連載「いのちに想う」4月 求愛
アカハライモリ
文=小林朋道(公立鳥取環境大学学長・動物行動学者)4月になって私が会いたくなる動物の一つは「アカハライモリ」だ。
平野部では希少種になってしまった彼らの行動や保全対策の研究のため、私が大変お世話になっていた調査地が鳥取市内に3つある。
その一つは、樋門を出て河川を蛇行しながら進み本流に達する小川の途中にあるたまりだ。
水ゆるむ4月、このたまりでは、水際の隠れ処から中央部に出て餌を探す雌に、盛んに求愛する雄の姿が見られる。
春から初夏にかけては彼らの繁殖期なのだ。雄は懸命に尾を振り、自分の肛門分泌腺から雌の鼻先に向かう水の流れをつくる。腺でつくられるソデフリンと呼ばれる物質が、雌へのニオイによる求愛メッセージになるからだ。
たいてい雌は立ち止まることなく逃げるように歩いていく。何匹もの雄から求愛を受けて、雌は雄を選んでいるのだ。逃げられても逃げられても雄は懸命に新しい雌に求愛する。ちょっとお嬢さん、と私は思う。
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