穀雨～雨の恵みを愛でる【連載・村雨辰剛の二十四節気暮らし】

村雨辰剛の二十四節気暮らし
庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。

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穀雨～雨の恵みを愛でる

常緑の松も穀雨の潤いで瑞々しさを増して。

都心では桜の季節を見送り、花の盛りが北国へと渡る頃。春の二十四節気の最後となる「穀雨（こくう）」を迎えました。実は、この言葉も連載を始めて出会った言葉のひとつ。「雨生百穀（うりゅうひゃっこく）」に由来していて、優しい春雨が田畑の穀物を潤し、農耕に関わる人々にとっては恵みの雨をもたらす季節を指しています。「清明になると雪が降らなくなり、穀雨になると霜が降りることもなくなる」といわれるように、冬から春へ完全にシフトするのですね。

僕が大切に育てている盆栽にとっても、この雨は自然界からの贈り物。今回は、20代の頃から続けている趣味でもある「盆栽」についてご紹介します。

針金をかけて整えた村雨家の黒松。しなやかな枝ぶりが凜として美しい。

僕が盆栽と出会ったのは22歳の頃。庭師の修業をする前から興味があり、独学で少しずつ始めました。時々、これも庭師の仕事の延長と思われるのですが、庭師の仕事は「造園」、盆栽は「園芸」というジャンルで、全く違うもの。僕にとって盆栽は趣味の世界です。


現在、我が家には黒松の盆栽が2点と、前回の「清明」でもご紹介した「ゴショザクラ」の盆栽が1点あります。ことに、黒松は庭木でもお気に入りの品種。木に負担をかけないように、熟考を重ねてかけた針金によって、徐々に理想の枝ぶりに整ってきました。

10年以上使い込んでいる、村雨さんの盆栽用お手入れセット。

盆栽が鎮座する場所は、適度に雨があたり風通しのよい、縁側に設えた棚板。雨がしっかりと土に染み込むことで、樹皮も葉も潤い、生き生きと感じられます。天気に左右される庭師の仕事では、つい雨を厭う気質が身についていましたが、「穀雨」について調べるなかで、春に降る雨の名前をたくさん見つけました。

農作業の始まりに合わせるように降り、草木に柔らかく降り注ぐ春の雨は「甘雨（かんう）」。春の花が咲いている頃に降る雨は「華雨（かう）」。さらに、春に降る雨によってすべてのものが潤いと生気をもって蘇ることを「万物生（ばんぶつしょう）」と表現するそうです。そして僕の苗字にも「雨」の文字が！　皆様も、この春は雨の日に古の言葉を楽しんではいかがでしょうか。

シャッターを切られていることも忘れるほどお手入れに熱中。

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村雨さんが見つけた二十四節気

左・「草木の緑が潤うのを目にすると、清らかな気持ちになります」と、雨に濡れる福寿草に心惹かれた村雨さん。右・舞い落ちる桜にも心を寄せて。

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村雨辰剛（むらさめ たつまさ）
1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。