30歳を迎えた名人の抱負とは?
唯一、答えに窮した質問は……
天彦名人はいつも自然体。初めてご対面したファッション斑のスタッフたちも、素直で明るく、飾らない天彦名人のお人柄にすっかり魅了されていました。――30歳を迎えられて、人として男性としての抱負はいかがでしょう?
「どうなんですかね(笑)。
これまでの30年で素晴らしいところまで来られましたし、趣味に関してものめり込んで、自分が楽しく生活できるスタイルがある程度できているので、ここからさらに新しいものを追い求めていければと思っています。
今までは将棋はもちろん、ファッションや音楽といった趣味に関しても、自分が持っている世界観って何なのだろう?と、好きな物をとにかく突き詰めていって生きてきた30年間だったかなと。
これからはよりそれを解放して、自分が元々持っているスタイルだけではなく、新しく興味をそそるものに対して貪欲に取り組んでいきたいという気持ちにはなっていますね」
――ちなみにですね、お好きなタイプはどのような?
「それは女性のですね? あ~~、どうなんですかね、あるのかなあ(笑)。
いろいろな女性を魅力的に思うことはありますけど、ただどういう方が一番タイプなのかというのは難しいですよね。
でも、あるのかもしれないですよね。
う~ん……。
活動的でよく話しかけてくださる方もいれば、おとなしい方もいるし、どちらも受け入れられる気はするんですよ」
――そこはあまり限定という感じではないんですね。
「そんな気はするんですよね。
もちろん進んでみたら、自分にはちょっと合わなかったなというのはあるかとは思うんですが、はっきりわかっているわけではないので、そこちょっと難しいですね(笑)」
――洋服や家具みたいにずばっと好みがあるのかも? と思ったのですが(笑)。
「そういうわけではないです。
やっぱり相手が人間ですしね(笑)。そこは大きな違いですよね」
――尊敬する人は誰ですか?
「作曲家ですかね。
ベートーヴェン、モーツァルト、メンデルスゾーンとか。考え方というよりは、作品や美意識、センスに惹かれます。
音楽や美術、文化としてのバロックやロココが好きなので、ポンパドール夫人とか美意識を具現化して、それが後世に残るような人はすごいなと思います」
――30歳のお誕生日はどう過ごされましたか?
「木村先生(木村一基九段)と一対一で将棋を指していました。
高校生のときからお世話になっているのですけれど、ご自宅で練習対局していつもそのあと鰻をご馳走になるという流れです(笑)」
今回は趣味のジャンルでの取材だったので、質問の幅を将棋以外にも広げていろいろお聞きしてみたのですが、すべてに真摯にお答えくださった天彦名人。改めまして、ありがとうございました。名人戦での素晴らしい対局を楽しみにしております。
佐藤天彦/Amahiko Sato棋士
1988年福岡県生まれ。2006年18歳でプロデビュー。2016年第74期名人戦で羽生善治名人からタイトルを奪取し、九段に昇段。75期も防衛に成功し、2期連続名人位。中近世の文化をこよなく愛し、ファッションへのこだわりでも知られる。21歳で出会ったクラシカルなテイストが特徴の「アン・ドゥムルメステール」の服だけで100着、洋服は全部で300着以上、和服は羽織10枚、セットで6着ほど所有。
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。