偶然の必然で決まったキャスト
姪の美花と再会したシーンを演出する平栁監督(中央)。「監督は自由に(演技)させてくれました」。43歳、独身。自分の殻のなかで生きている川島節子。だが、姪の美花の代わりに通い始めた怪しげな英会話教室で、金髪のウィッグを被って“ルーシー”になるや、彼女の心は解放される。講師のジョンのハグで、眠っていた感情が呼び覚まされた節子は、ジョンの愛を求め、一路カリフォルニアへ……。
「自分がその作品でどこまで演じられるか。まずは脚本を読んで考えるので、私の場合、仕事を受けるかどうかの判断は脚本に拠るところが大きいのですが、『オー・ルーシー!』には、監督のオリジナリティを感じました。久しぶりに、セリフをはじめ、いろいろ決め込みすぎていない脚本で、その不完全さにも魅力があったし、余白の部分で自分がやりたいことをできるだろうとも思いました」
作品選びは賭けでもあるという寺島さん。短編で評価を得ていたとはいえ、この『オー・ルーシー!』が長編第一作となる平栁監督は、役者にとって、ある意味、未知数の演出家だったはずだ。だが、“この監督となら絶対できると思った”という寺島さんに続いてジョシュ・ハートネットさん、役所広司さん、南 果歩さんとキャストが決定。新人監督の長編デビューを支えている。
「きっと役所さんも、脚本に何かを感じて出演を決めたのでしょうけれど、監督も役所さんに演じてもらえることをすごく喜んでいました。シーンは多くなかったものの、この映画は役所さんがいなかったら成り立たなかったですし、金髪のウィッグとピンポン玉から始まった節子さんの旅が、偶然の必然だったように、『オー・ルーシー!』はかかわるべき人がかかわってできた1本だと思います」
作品には、日米間の文化の差異というテーマも流れているが、ご自身もフランス人男性と国際結婚されている寺島さん。実生活の日常は、節子を演じるうえで何か影響があったのだろうか。
「私も主人に会ったときはひと目惚れみたいな感じでしたし、語学力も節子さんみたいなものだったので、いかに自分に振り向かせるか、ジョンに対する彼女の必死さはなんとなくわかりますね(笑)。
主人と一緒にホームパーティに行くと、主人の友達は、私にも当然のようにビズ(頰を合わせる挨拶)するんです。何で初対面の人とこうするのかなって、私は思うけれど、それは単に習慣の違いであって。でも、節子さんの世代だと、ハグを、それもジョシュのようなイケメンにされたらふわーってなってしまうという、その辺りは説得力がありました」
カリフォルニアまでジョンを追いかけてやって来た節子。「自分の殻をつくっているわりにはアクティブなところが節子さんの厄介なところで。でも、そういうバランスの取れていない人って世の中に少なくないですよね」と寺島さん。