佐々木さんが今回の取材テーマを意識して盛りつけてくださいました。上列が3種類の箱寿司(1人前3888円/税込み)。下列は左が鯖姿寿司(同2430円)、右が太巻き寿司(同2268円/すべて税込み)。写真は8人前。ワサビを使わないのが特徴
また、著書『美味しいもんばなし』(鎌倉書房)では、小学校の遠足の昼食として、毎回いづうの香子巻きを持参していたことがつづられています。文章によれば、持ち歩くことを念頭にワサビを効かせるなど、仕出し屋であった大村しげさんのお父さんが細かく注文をした特製の巻き寿司であったようです。
佐々木さんに当時の文章を読んでいただいたところ、興味深いお話を聞けました。
「香子巻きに入れた青味(三つ葉)は時間がたつと青臭くなって、おいしくなくなります。だから、ワサビを多めにしていたのです。京寿司は生で魚を出さず、なにかひと手間を加えるのが特徴です。また、ワサビ、しょうゆを使いません。当時(1920年前後)、いづうで江戸前をお出ししていましたが、そのときも火を通したり、酢でしめたりと生食ではありませんでした。本来ならワサビは店に置いていなかったはず。にもかかわらず、ワサビを使っています。このことから、大村さんのお父さんがいづうをご贔屓にしてくださっていて、特別な依頼ができるほどお店との距離感が近かったことが読み取れます」
いづう本店内。「いづうの教えとして同じスタイルで長く続けていくことはできない。時代をよく読みなさいと言われました」と佐々木さん。かつて、進物やお茶屋に届けるものだった、いづうのお寿司を店内で食べられるようになったのは約50年前。観光客が増え始めた時流を、先代が見抜いて、腰掛茶屋をイメージしてこちらの空間を作られたそうです。