山間にシャクナゲが咲く渓谷がある。クヌギの花がかんざしのように垂れ下がるころ、シャクナゲも満開になる。この“感性の栄養”を培ってくれる土地は、ここ30〜40年の間に激減した。絶滅危惧種という言葉をよく耳にするけれど、絶滅しているのは、生きものではなく環境の方だったのだ。数多くの生きものが棲めるような農地を、再び取り戻したい。そんなことを夢見て、このプロジェクトがはじまった。
この行為は、写真を撮ることと同じで、私の表現なのである。
荒れた農地を手に入れたとき、頭のなかに、新しい言葉が思い浮かんだ。それは、“環境農家”。作物を収穫する土地としてだけではなく、農地を、生きものの棲家としても考える。そして、人が数多くの生命と触れ合える場所を目指す。
“環境農家”は、豊かな土の匂いを取り戻すプロジェクトでもある。
在来種のノイバラは、元気よく花をたくさん咲かせる。ツヤケシハナカミキリが蜜を求めてやってきた。