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前回まで)生きものの住処となるような里山「光の田園」を作るため、農家になる決意をした今森さん。やっとの思いで土地の開墾もひと段落。より細かな、理想の環境作りの段階に入ります。
今森光彦 環境農家への道
第9回 消えてゆく生きものたち
(文/今森光彦)
待ちに待った初夏の到来。そんなころ、 稲木が影を落とすアトリエの並木道を歩くと、甘ったるい匂いがただよってくる。
6月から、本格的な夏を彩る花々が咲き始める。その多くが、蝶をはじめとする昆虫たちが好む植物で、豊富な蜜を蓄えている。夏は、木々の花が少ない時期なので、ガーデンエリアの植生はとても重要。それと、この季節は、雑木林とオープンエリアの日照の差が顕著なので、蝶の行動半径も広くなる。アゲハチョウの仲間は、片陰をぬって飛翔し、毎日同じコースを巡回している。梅雨入りから梅雨明けの時期は、観察にはもってこいの季節だ。香りは、風の中に溶けこむように日に日に濃くなってゆく。
その芳香の主は、ブッドレアやボタンクサギなどの夏を彩る花々たち。これらの植物は、強い光を待ちわびていたように一斉に咲き始め、庭に可憐なお客さんを招いてくれる。甘い蜜にひかれてやってくるアゲハチョウの仲間たちの優雅な踊りは、いつまで鑑賞していても飽きることがない。
竹林の開墾が一段落した農地は、いよいよ、きめ細かな環境を再現する段階になった。これからは、農地管理だけでなく植栽や移植など、日を追うごとにやることがいっぱいある。
こんなとき、いつも頭から離れないのが、生きものたちのことだ。
迷彩模様を装って休むアマガエル。それも思い浮かべるのは、種類という個性的な顔、顔、顔。私の任務は、個性豊かな命が環境に完全に歩調を合わせてくれるように考えること。農薬や土地改良によって逃げ場を失っている生きものたちに、住処を提供したいという願いが、環境農家になったひとつの理由だ。