街中が薄紅色に染まる桜の季節。今年はソメイヨシノの開花が早かったため、今は八重桜が見頃ですね。我が家の庭では桜と牡丹が共演しております。今月は、まずは徒然ダイアリーからお届けさせていただきます。
花の外には松がばり 花の外には松がばり 暮れ染めて鐘や響くらん
4月になると自然と口ずさんでしまう、この一節は、長唄の大曲、そして歌舞伎舞踊の代表作「京鹿の子娘道成寺」の冒頭部です。写真は4歳から続けていた坂東流の日本舞踊の集大成として40代に踊った「道成寺」のワンシーン。舞台の上は、どこもかしこも桜尽くし!今月は、この一世一代で挑んだお浚(さら)い会の話題をまずはお届けします。
安珍(あんちん)に恋焦がれ大蛇となった清姫の化身である白拍子が女心を可憐に、そして時に切々と踊り分けます。邦楽のお浚い会では「撒き物」と言って、お客様にお弁当や手拭いをお配りするのが習わしです。この時は、父に桜を描いてもらい、それを小風呂敷に染めて皆様にお配りました。ちなみに、「鷺娘」を踊った時には鷺の絵を、「鏡獅子」を舞った際には牡丹の花を描いてもらいました。今から思い起こすと贅沢な趣向でした。
こちらの原画は、すべて福島県二本松市にある大山忠作美術館に寄贈してしまい、私の手元には小風呂敷を額装したものしか残っていません。このお浚い会のために、出演者はお揃いの訪問着まで作るという気合いの入れよう。黒字に宝尽くし、そして家紋ではなく坂東流の紋が染め抜かれています。坂東の紋を背負うと、今でも気持ちがきりりと引き締まります。帯は、銀綴れの無地でタレの部分に各々が好みの図案を刺繍して自分らしさをアピール。
五十鈴さんという芸名の方なら鈴の文様を、動物が好きな私は日本画の古い図案帳から探し出して猫が羽を加えている図柄を刺繍しました。今だったら、きっと愛犬リンゴとタンゴの姿を刺繍したかもしれません(笑)。お浚い会の当日、母は「道成寺」の演目にちなんで桜の帯を締めていました。上品な江戸紫の地色に、桜のシルエットを濃淡に染め抜いた帯でしたが、「あら、その帯、素敵ね!」という褒め言葉に気を良くした母は、気風よく義姉に譲ってしまいました。