治る力 現代人は医療や薬に頼りすぎて、もともと備わっている自然治癒力が減退しているといわれます。そこで「“治る力”を活性化するには?」という疑問に、専門家の方に具体的にお答えいただく連載です。
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「抗がん剤の副作用に負けない、強い腸を作る、グルタミンの力 」はこちら>>「腸能力」を生かす(3)
善玉菌優位の腸内環境を保つことで、健康長寿の人生を謳歌できる
金沢大学大学院 消化器・腫瘍・再生外科学教授
太田哲生(おおた・てつお)先生
1954年石川県珠洲市生まれ。 79年金沢大学医学部卒業後、同大学外科学第二教室へ入局。医学博士。 87年同大学助手、96年同大学講師、99年同大学助教授を経て、2006年より現職。 専門は消化器外科、特に肝臓、胆道、すい臓疾患の外科治療。 おなかの外科医の立場から、「なぜ腸を丈夫にすることが大事なのか」を語る、一般向けの講演にも力を入れている。腸内を理想的な環境に保てばアンチエイジング効果も高くなるでしょうか?
太田哲生先生は「70歳が20歳に若返ることはないにしろ、免疫力が増強されるので高齢になっても“治る力”を高め、病気と上手に闘えることは確かです。女性には切実な肌の老化、さらには認知機能の衰えの改善が期待できます」と明言されました。
腸能力を高める秘訣は腸内環境を弱酸性に保つこと
最近は「腸能力を高めて健康長寿を目指す」というテーマで、講演を依頼される機会が増えています。消化器外科医としてお話ししている内容は、患者さんの手術前後に行っている、腸管免疫を活用して回復力を高める方法が土台になっています。
特に“腸内環境を弱酸性に保つことが重要〟という話には力が入ります。私が着目しているのは、生きて腸まで届く菌でしか作れない代謝産物(乳酸や酪酸など)が腸内環境を弱酸性にする点です。
健康な肌は弱酸性ということはよく知られていますが、それと同様に腸内も弱酸性になることで、多数派の日和見菌が善玉菌に加担し、酸に弱い悪玉菌の増殖を防いで、腸の免疫機能を活性化させてくれます。
余談ですが悪玉菌にも存在価値はあって、老化予防に必要な水素を、日和見菌の助けを借りて作り出すなど、少しは健康に役立つ働きを担っています。
また、日和見菌には、バクテロイデスという“痩せ菌”がいて肥満を抑制してくれることもわかりました。100兆個以上あるといわれる腸内細菌、その健康効果はまだまだ未知数なのです。
「腸能力の高い人、そうではない人との違いは?」とよく聞かれますが、「腸まで届く乳酸菌やビフィズス菌を毎日摂って、腸内環境が弱酸性に保たれている人は腸能力が高い。逆に、悪玉菌の好物の肉類や加工食品ばかり摂り、食物繊維の多い野菜類などの摂取が足りなかったり、過労や睡眠不足の状態が続くと、腸能力が低下します」と答えています。
腸を弱酸性の良好な環境にするために、私たちの科では、腸まで届く善玉菌として「ヤクルト400」と「ミルミルS」、小腸の免疫バリア機能を強化するグルタミン(たんぱく質に含まれるアミノ酸)に食物繊維やオリゴ糖を加えた「GFP」、さらにグルタミンと免疫力を上げるアルギニン(アミノ酸の一種)に、筋肉を作るアミノ酸を多く含んだ「アバンド」など、栄養補助食品の摂取を患者さんにおすすめしています。
皮膚も血管もたんぱく質です。右記のアミノ酸類や腸まで届く善玉菌を摂る習慣を続ければ、肌がつややかに輝いて気持ちも華やぎ、心身ともに若返るという、アンチエイジングに向けたメカニズムが働く、そういった効果も考えられます。