腸をいたわる生活は、何歳から始めても遅くない
あらゆる病気が腸内環境の悪化から生まれるといっても過言ではないでしょう。腸内環境の悪化は、がんだけでなく、うつ病や認知症と関連した報告もみられます。しかし、腸内環境が良好に保たれれば、どんな病気も改善される可能性が高くなります。
そうはいっても、現在健康なかたがたには「腸を丈夫にしよう」という話は馬耳東風かもしれません。私も、苦しんで亡くなった母と同じリウマチを発症するまでは、自分の腸内環境に関心を向けたことはありませんでした。腸管免疫の研究も、自らの治す力を引き出したいという一念から始まったものです。
人は危機的な状況に陥ったときに腸内環境を良好に保たなければと、初めて思うのかもしれません。市民公開講座の参加者は、闘病中か、家族に病人がいるかたがほとんどです。
それまで一所懸命働いてきたけれど、定年を迎えたときに運悪くがんが見つかったというかたに、「気持ちを切り替えて、今までこき使ってきた体やおなかをいたわり上手に病気と向き合って、再発なしの一病息災を目指してがんばりましょう」と話したこともありました。ヤクルト400を毎日飲むなど、腸を大切にする暮らし方は何歳から始めても間に合います。
ここでは、私たちの消化器外科で行っている、手術前後に腸内環境をよくして回復力を高めるという、独自の取り組みについて述べてきました。この考え方を理解して、診療に取り入れている医療機関は今も少数派です。
しかし、“一隅を照らす”という言葉のように、私たちの外来を訪れたかたに、笑顔になって帰っていただける治療ができたら、それが千里先まで光を届ける一歩となるかもしれないと、自分にいい聞かせているのですよ(笑)。
取材・文/宇津木理恵子 撮影/八田政玄
「家庭画報」2018年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。