そして、いよいよフラメンコショーが始まると、男性のダンサーと女性のダンサーが1名ずつ現れ、ジプシーのロマンティックで物悲しいメロディがフロアに響き渡ります。
ダンサーがひとたびステップを踏み始めると、そこにはまさに「獣」が現れます。後ろで伴奏を務めるギタリストや歌手たちが、まるでダンサーを攻め立て、追い詰めるかのように激しい手拍子を打ち、それに応えるように、いやまるで戦うかのように一心不乱に舞うのです。
それはもはや、ただのダンスショーではなく、荒々しい獣たちの命のやり取りを観ているかのようでした。ダンサーたちの踏む超人的高速ステップに観客も圧倒され、こちらの心臓まで高鳴ります。
こんなにも魂を揺さぶられるような舞を見たのは、プロダンサーをしていた私でも初めてで、気づけば涙が頬を伝っていました。しかし、この涙が一体どんな感情から湧き出たものなのか、実はいまだに説明ができないのです。
隣にいた夫を見てみると、やはり私と同様涙を堪えきれなかった様子でした。後で聞いたところによると、夫の家族の古い古い祖先は元々ジプシーだったそうで、まるで自分の本能や遺伝子レベルで、心が揺さぶられた思いだったと語っていました。もしかしたら、私の涙もそんな感じだったのかもしれません。それほどまでに不思議な感動をくれるフラメンコ。
そこには伝統芸能の粋を超えた、「何か」があるような気がします。スペインを訪れたら是非、皆さんもフラメンコを体感してみてください!
(追記)
ショーの後に、たまたま出演されていたダンサーさんとお話しする機会があったのですが、きものでフラメンコを観に来てくれたことを、とっても喜んでいました。伝統的な舞を、伝統的な衣服で観に来てくれるのは、最大のリスペクトよね!と話していました。
北川聖子/Seiko Kitagawa