鞍馬の山中に昆布があるのはなぜ?
さて、鞍馬の佃煮は昆布を使った木の芽煮のほか、ちりめんじゃこなど海の幸を使ったものなども名物となっています。なぜ、山の中なのに鞍馬の人たちは、昆布をはじめ海産物を材料に使っているのでしょうか。これには訳があります。
「くらま辻井」本店前。鞍馬駅からお店までは、鞍馬川の清流や山の緑なども眺められて、非常に心地よい散歩が楽しめます。「鞍馬は船のない港と言われてきました。福井県の若狭から鯖を一塩(塩漬け)にして山を越えて京都へ運びます。鯖街道は琵琶湖の湖西を通るなどいくつかのルートがあり、鞍馬を越えて京都の町へ入るルートは一番距離が短かった。そのため鞍馬は山奥ながら行商の人でにぎわっていたのです。私たちは利尻の昆布を使いますが、なぜ鞍馬に利尻昆布が?と思われるでしょう。旨味の詰まった利尻昆布は、味がしっかり出るのに色は出ないため、いまも京都の料理店は利尻昆布を使うお店が多いと言います。昆布は、北海道からいろいろな港を経て若狭から鞍馬を通り京都へ届く。これが鞍馬に利尻昆布がある理由です」(店主)
いくら細かく刻んでも利尻昆布なら角が崩れずにパラリと仕上がります。これも利尻昆布が木の芽煮に選ばれる理由だと大女将から、豆知識を授けてもらいました。
約40年前に5~6種類だった佃煮は、いまや種類豊富で季節ごとの希少な食材を使ったものも用意されています。写真は塩漬けにした山ぶきの塩気を抜く作業の様子。地元の女性たちが手作業で丁寧に選別し、きれいに切り揃えていました。地元で採れた食材を生かした保存食が、海の幸と交わり生まれた木の芽煮。深い味わいはもちろん、膨大な手間と時間をかけて昔ながらの味を生み出す作り手の情熱を、大村しげさんは多くの人に伝えたかったに違いありません。読者の皆さんもご飯に混ぜた木の芽煮の美味しさを、ぜひとも味わってみてください。
Information
くらま辻井 本店
京都府京都市左京区鞍馬本町447
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村さんの功績の再評価を目的にしたWebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/