なにげない日常に、ある日やってきた猫が人生を変えた―。猫と暮らす、あるいは暮らした5人の愛猫家の皆さまに傍らに猫のいる心豊かな日々を語っていただきました。
第2回目は、作家・谷村志穂さんと愛猫のミーミー、ルールーのお話です。(前回の
猫のいる愛しき人生! 第1回(俳優 平岳大さん)はこちらから。)
谷村さんとルールー。「ずっと家にこもっていても、猫がいると全然退屈しないんです」「猫から教わったのは、優しさかもしれない」──谷村志穂さん
作家の谷村志穂さんが初めて猫を飼ったのは32歳のとき。ある日突然、それまで苦手だった猫と暮らしたいという感情が“入道雲のように湧いてきて”、チャイという名前の保護猫との波瀾万丈の暮らしが始まりました。
以来22年間、谷村さんとともに人生を歩んだチャイとの心を打つ物語は『チャイとミーミー』というエッセイに詳しく綴られています。
ミーミー(雌/14歳)
チャイと仲よしだったミーミーは、ご主人がもらってきた猫。人見知りだけれど、谷村さんにはとても甘えん坊。北海道大学で動物生態学を専攻していた頃には、猫を飼う人間になるとは夢にも思っていなかったという谷村さんのご自宅に現在暮らすのは、14歳になったミーミーと2歳のルールー。
近所の公園で保護された小さなルールーに会ったのは、チャイが亡くなって半年後のことでした。その日の帰り道には、娘の秋穂さんに優しく抱かれて、ルールーは家族の一員となったのです。
ルールー(雌/2歳)
2歳のルールーは遊びたい盛り。仕事中でも谷村さんは意を決して、真剣に一緒に遊ぶ時間をつくるという。「猫はどんな猫でも美しく、野性を秘めた生き物だと思うんです。“家の中に野生がある”という感じがすごく好きですね。猫との出会いは、どこか恋愛と似ていて、最初はお互いにどんな相手かわからない。特に保護猫はここに来る前はどうしていたのかも、誕生日も正確にはわかりません。
それでも少しずつ知り合っていくのが面白くて、いつしか同じ空間で過ごすようになりました。チャイとミーミーと暮らしてルールーが来て、猫がいよいよわからなくなりました(笑)。本当にそれぞれ性格がまったく違うんですから」
作家として小説に取材旅行にと多忙な日々を送る谷村さんが、猫たちから学んだのは“脱力”すること。
「必死に原稿に向かっているときにふと見ると、ねじれた変なポーズで寝ていたりします。そうすると『ちょっと休もうかな』という気になります。眉間のシワがほどけて、無理せず、頑張れるときに頑張ろうという気持ちになるんです」
若い頃はうまく力を抜くことができずにいたという谷村さんの前で、しどけなく寝ている猫の姿に、ふっと脱力する瞬間。それでいて、いざというときには瞬発力もあり、生き延びる力も秘めている、しなやかな猫たちに教わることは無尽蔵です。
初めて猫とつきあうことになった谷村さんの謎を解き明かしてくれた、エリザベス・M・トーマスの『猫たちの隠された生活』をはじめ、猫SFの傑作、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』、猫との暮らしを綴った村松友視の『アブサン物語』なども愛読書に。 棚の上に置かれた、水飲み用の染付の器と餌の入ったボウル。 昨年秋からブラッシングするたびに集めている、ルールーの毛。 谷村志穂(たにむら しほ)
1962年、北海道生まれ。90年、『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。2003年、『海猫』で第10回島清恋愛文学賞を受賞。代表作に『黒髪』『余命』『尋ね人』『移植医たち』など多数。ブログ「HOUSE」には猫の写真も。
撮影/阿部 浩 ヘア&メイク/AKANE 取材・文/瀬川 慧
『家庭画報』2018年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。