瑠璃色の訪問着には、オーロラ色の帯を
季節に寄り添い、その気配を装いに込めることが「きものの歓び」ですが、今日は色で季節感を表現してみました。
爽やかな風を感じさせるような藍白の紬地に、瑠璃色と金をさっと掃いたような訪問着は、西東智恵子さん作の一枚。母は花鳥風月といった意匠を凝らした華やかなきものは、自分の仁(にん)には合わないと言って、西東智恵子さんのきものを好んで誂えていました。作家の年齢が自分の母親と同じ年齢だったことから、母は西東さんに特別なシンパシーを感じていたようです。年賀状や納品時などに添えられた毛筆のお手紙は、そのまま額装したいくらいに見事! 「書は人なり」という言葉どおり、西東さんの知性と高い美意識が表れていました。
オーロラ色の帯の艶めきが帯留めの水晶と瑞々しく響き合って。西東さんの訪問着に合わせた帯は、文化勲章も授与した日本画家の橋本明治先生の奥様が、母に譲ってくださった50年以上前のもの。母自身のコーディネートはというと、有職文様の帯を合わせて格を表現していたように記憶しています。それぞれのきもの愛好家のタンスに眠っていたものが、私の世代に移り変わることによって、こんなにもモダンで垢抜けた装いになりました。
母は紬の訪問着にも家紋を入れていました。今は「紋付」ということにあまり拘らなくなりましたが、こうして後ろ姿を写真に撮られると装う人の矜持が漂うような、凛とした印象を与えるものですね。手にしている紫のバックスキンのクラッチバッグは、叔母が譲ってくれた大昔のフェラガモのもの。その季節の自然から生まれた「旬」の差し色は、装いに情緒を生むものですね。