春の味と評した田楽豆腐の味わい
大村しげさんは著書『京・四季の味』(講談社)の中で「木の芽みそは春の色、春の味がする」、「祇園さんへのおまいりに、ちょっと寄って虫養い(※)をするのに手ごろである」と書いていました。記述では当時の二軒茶屋の11代目店主であった辻 重光さんから田楽豆腐の製法を丁寧に聞きとっているばかりでなく、味噌や松葉串の製作者のもとにも足を運び、それぞれの声を拾っています。料理のみならず、食材や道具にいたるまですべてを知ろうとする意気込みに、驚くほかありません。
※一時的に空腹を満たす程度の軽食のこと。中村楼12代目店主・辻 雅光さんの田楽豆腐を焼く手さばきを拝見。炭火で焼いた田楽豆腐からは徐々に良い匂いが漂ってきます。中村楼12代目店主・辻 雅光さんによると豆腐に塗る田楽味噌の製法は昔と変わらず、すった白味噌、砂糖、酒、みりん、卵の黄身、すりごまを混ぜ合わせています。木綿豆腐は特注のものを使用。また田楽味噌の配合は、季節ごとに微調整をして味の安定を図っているというから、さすがです。
あの弥二さん喜多さんも食べた?!
二軒茶屋と田楽豆腐は長い歴史を持つだけに、ユニークな逸話が残されています。
「二軒茶屋の田楽豆腐は江戸時代からの名物です。京都はお寺の本山が多い場所。日本に伝来した豆腐はお寺から町へ広がりました。二軒茶屋は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の中に描写されたほか、オランダ出島の商館長が田楽豆腐を好み、いつも立ち寄っていたとされます」(辻さん)。
辻 雅光さんは京料理のみならず日本料理界の未来のため、後継者の育成に熱心に活動されています。 二軒茶屋に隣接する中村楼。 当初、二軒茶屋は水茶屋から始まり、やがて豆腐料理、菜飯、酒を提供するようになって江戸末期には料理茶屋となりました。その流れを受け継いでいるのが、現在の二軒茶屋と隣接する中村楼なのです。中村楼は宮家、財界人をはじめ、外国の要人、芸術家、文人墨客らが集う京都を代表する名店として知られているのはご存じの通り。
木の芽を使っていることもあり、田楽豆腐の旬はやはり春。旅の途中でお腹が空いたら、大村しげさんのように、二軒茶屋の田楽豆腐で虫養いをしてみてはいかがですか?
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村さんの功績の再評価を目的にしたWebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/