数値に振り回されないためのケーススタディ
ケース(1)
「貧血です。このままだと大変なことになりますよ……」と、医師に脅かされた
健康診断の結果、ヘモグロビン値(赤血球中の血色素の値。女性の基準値は12・1~14・6g/dl)が9・8g/dlで「異常」との結果が出たA子さん(48歳)。自覚症状は何もなかったのですが、少し心配になって近所の内科を受診すると「鉄欠乏性貧血」との診断。「このままだと大変なことになりますよ」といわれ、しばらく飲み続けるようにと鉄剤を処方されました。
日常生活に何の支障もなく過ごしているのに、突然“患者”にされてしまったことに納得のいかないA子さん。治療は本当に必要なのだろうかと半信半疑です。
【患者の心得】
放っておいたら、一か月後にどうなっているかを聞いてみる生理がある女性に、体質上貧血が見つかることも少なくありません。私(尾藤)でしたら「やや貧血気味ですね。鉄分の多い食事を心がけましょう」程度の対応をするかもしれません。鉄分の錠剤で具合が悪くなるかたも結構いるので、杓子定規に正常値にこだわる必要はないかとも思います。
医師は往々にしてそのような言葉で患者さんを“脅し”がちです。納得できない場合は「放っておいたら一か月後、私はどうなっているでしょう」と聞いてみましょう。意外に心配のない場合も多く、「では、しばらく様子を見ますか……」と医師のスイッチが切り替わるきっかけにもなります。
ケース(2)
腫瘍マーカーの数値が基準を超えていた。私はがんなのだろうか
B子さん(58歳)は、人間ドックのオプションでがんの腫瘍マーカー(CEA)を調べました。特に心配だったわけではなく軽い気持ちで受けたのですが、届いた報告書を見てみると、なんと基準値の5mg/mlを超えて8mg/ml!
私はがんなのか……と一瞬パニックになり、その日から食欲も落ちてしまいました。総合病院の予約をとりましたが、混んでいて診察は半月先。四六時中、がんの心配がつきまとい、平穏だった日常生活が一変してしまったB子さん。この数値をどう受け止めたらいいのか混乱しています。
【患者の心得】
がんではない可能性のほうが高い。その程度の検査である1000人の日本人を無作為に集めてCEAの検査をしたとき、数値が8mg/mlの人は、がんである確率よりそうでない確率のほうがずっと高いのです。
腫瘍マーカー値が少し高いだけで徹底的に調べようとすると、超音波検査、内視鏡検査、CT検査などを重ね、「明らかながんはありませんでした」と告げられることも多々あります。
それに伴う身体的負担は決して小さくなく、その後もがんのことが頭から離れない心理的負担も無視できません。早期発見の目的で調べる腫瘍マーカー値には、知ってしまうデメリットもあることを知っておきましょう。
ケース(3)
コレステロールの値が上昇
2か月前に悪玉コレステロールの数値が144mg/dlとなり、主治医に注意を受けたC子さん(55歳)。生活習慣を見直したのに昨日の検査では逆に147mg/dlに上がってしまい、すっかり落ち込んでいます。
【患者の心得】
小さな変動に一喜一憂せず長い目で血液検査の数値は体重と同じで、その日の体調などに多少なりとも左右されます。小さな振り幅の変動にとらわれて一喜一憂するのでなく、長いスパンで見て「だんだんよくなっている」とか「相変わらずだ」などととらえるのがよいでしょう。