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今森光彦さん、農家になる。伐採した木々を競りにかけたら

2018.07.10

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前回まで)理想の里山を求めて農家になる決意をした今森さん。生き物の住処を作るのに必要な作業のため、涙をのんで木々を伐採します。

今森光彦 環境農家への道
第12回 伐採した木々を競りにかけたら


今森光彦さん

部屋の中で、剪定したばかりの園芸種のユリをいける。花は、できるだけ飾るようにしている。


(写真・文/今森光彦)

伐採する木の数は、何百本にもなる、いったいどうするべきか。表情を曇らせる私をみて、農家の西村さんが、名案を出してくれた。

それは、伐採したスギやヒノキを貯木場へ運び、競りにかけてはどうか、そうすれば、だれかが、何かの役に立ててくれるはずだというのである。

それと、もうひとつ、仰木(おおぎ)祭りのときに使う流鏑馬(やぶさめ)の的として、ヒノキを献上してはどうかという。

私は、思いもよらなかった2つのアイデアをそのまま実行することにした。伐採したスギやヒノキは、太くて姿の良いものは4tトラックに載せた。

結局一度に積みきれずに二往復することになったが、竹の根掘りを手伝ってもらった仰木の材木屋さんの力を借りて、なんとか、材木の集積場に運び込んだ。



木の切り口には、今森の“今”のマーク。 出荷するときには、この目印がないと、貯木場で膨大な数の他の木々に紛れてしまう。

競りは、数日後に行われ、私も立ち会った。はじめての経験だったので、けっこう緊張感があった。まるで、魚屋さんの競り市さながらで、競り人の迫力ある声が、広い空に響き渡った。

結論をいうと、私が売りに出した木々は完売したが、価格の方は、低調に終わった。どれほど低調かというと、手伝ってもらった人のお礼やトラックのチャーター料金などを差し引くと、ほとんど何も残らない、というありさまだ。

あれほど手間をかけて出荷したのに、この結末。日本の材木が、こんなにも価値の無いものになってしまったことに驚いた。農家の人が山の木々を見放す理由を、身をもって実感した。

木の競りの様子

伐採した木は、県内にある木材の競り市に出品した。どんな人が買うのだろう、何に使うのだろう、と興味津津の一日だった。
一方、小椋神社からはじまる仰木祭りに奉納するヒノキの方は、厚さ数センチの板にひかれて、弓矢の的が出来上がった。奉納者である証として、私自身が、的の両端に赤色のペンキを塗らしてもらった。こんな体験は、もう二度とできないだろう。

今森光彦さん

ヒノキを薄くひいて出来上がった弓矢の的に赤いペンキを塗る。

長年お世話になった仰木の神様に献上できて光栄だ。宮司もたいそう喜んでくださり、満足感があった。 竹林の農地は、とことん荒れていたおかげで、里山のイロハを、今更ながらに私に教えてくれているように思う。



的は、すべて小椋神社の宮司によって奉納された。

(次回は8月7日更新予定です。お楽しみに。)

今森光彦

1954年滋賀県生まれ。写真家。 切り絵作家。
第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞などを受賞。著書に『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社)、『今森光彦ペーパーカットアート おとなの切り紙』(山と溪谷社)ほか。

『今森光彦の里山の切り絵 オーレリアンの花と生きもの』 世界文化社から好評発売中です。詳細>>  

撮影/今森真弓 【オーレリアンの庭】関連記事はこちら 今森光彦さんの切り絵作品がWEBギャラリーに! この連載は、『家庭画報』2017年2月号から掲載された「写真家・今森光彦の光の田園だより」をWEB用に再構成したものです。
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