母はアルゼンチン人。『エビータ』は、まさに出るべくして出た作品だろう。 ――高音域の力強い歌声はもちろん、エヴァが病に倒れてからの繊細な表現力も見事です。
「歌詞をきちんと届けることは守りつつ、物語を伝えるためのリアリズムと、役としての感情を前面に出すことを意識しています。わざとらしく病人に見せるのは嫌だったので、エヴァと同じように子宮頸がんを患った方達の話もたくさん聞いて、エヴァが感じていた痛みを自分なりに考えながら演じています。そこに正解がないことはわかっていますが、なるべく彼女の物語の真実を伝えられたらと思っています」
――エマさんの母方のお祖父様は、実際にエヴァの財団からのプレゼントをもらっていたそうですね。
「祖父がアルゼンチンに住んでいた頃は、クリスマスに子供が郵便局に行くと、宝くじとアイスクリームを無料でもらえたそうなんです。それがエヴァのクリスマスプレゼントだったと、祖父からは聞いています。エヴァが亡くなったのは、祖父が14歳のときです。祖父は80歳になった今もとても元気で、クリスマスには親族に会いにアルゼンチンに帰っています」
――本作品にも描かれているように、財団への寄付金を私物化したり、何かと問題行動もあったエヴァですが、アルゼンチンではどういう存在なのでしょう?
「母と一緒にアルゼンチンへ行くたびに、彼女が今も多くの人に愛されていることを実感します。あちこちでエヴァの絵を見ますし、彼女が行っていた慈善事業を引き継いでいる人達も大勢いて。ただ、英国人だった私の祖母は、実はエヴァが嫌いなんです。エヴァが亡くなった10年後くらいに母が生まれているんですが、その頃のアルゼンチンは自由にものが言えるような状況ではなく、マスコミへの検閲もあったらしくて。母が12歳の頃には、ホワン・ペロンが亡命先のスペインから戻って国内情勢がさらに悪化したので、一家で1974年に祖母の故郷の英国に移住しました。母が住んでいた頃のアルゼンチンは、ペロン政権の批判でもしようものなら、すぐに誰かに密告される状態で、みんな政治の話を極力避けていたので、母もエヴァに対する思い入れは特にないそうです」
小柄な体が舞台上では大きく見える。今年70歳を迎えたロイド=ウェバーのドラマティックなメロデーに彩られた歴史ロマンに乞うご期待。