旬を愛でる花旅・庭めぐりとは…毎週水曜日は、ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが“今が旬”の花の名所情報をお届け。今回は公園の丘全体が美しい花色に染まるアジサイの名所、静岡・下田公園をご紹介します。
旬を愛でる花旅・庭めぐり(37)360度アジサイに囲まれる圧巻のパノラマ〜静岡・下田公園
アジサイに囲まれながら散策路を丘の頂上まで上ると、眼下には下田の街並みと下田港が・・・・・・。気持ちのよいことこの上なしの絶景です。あじさい寺とは異なる、華やかなアジサイの世界にご招待
毎年、この季節になると「ああ、日本に住んでいてよかったー」と思います。街のそこかしこに咲くアジサイのなんと美しいこと。
アジサイといえば、お寺の参道や庭に咲く情景を思い浮かべる方も多いことでしょう。「あじさい寺」の別名を持つお寺が日本中にたくさんあります。
神奈川県鎌倉の明月院がとくに有名ですが、千葉県松戸の本土寺、埼玉県妻沼の能護寺、長野県松本の弘長寺、京都府福知山の観音寺、福岡県久留米の千光寺など、皆さんのお住まいに近いエリアにも「あじさい寺」がきっとみつかると思います。
さて、今回はしっとりした和の趣たっぷりの景色ではなく、ひたすら華やかなでエレガントなアジサイの名所をご紹介したいと思います。
静岡県下田市にある下田公園です。
小高い丘からは市街と下田港を一望できる、市民にとっては憩いの場所ですが、この時期は丘全体を覆い隠すほどにアジサイが咲き誇ります。その数、なんと約15万株。花房の数にすると300万輪にもなるという驚きのスケール感。
その丘を遠くから眺めたとき、アジサイの青、紫、ピンク、赤に一面染まる景色は日本でしか見ることができない絶景だと感じました。
園内には散策路が巡らされ、それを辿っていくと丘の上まで辿り着きます。
ただし、結構な坂道ですので、お出かけの際には歩きやすいシューズをご選択ください。
階段になった園路を上っていると、アジサイの大きな花房が目線のすぐ近くにあり、まるでアジサイの中に埋もれてしまうような感覚に。日本人にはアジサイを美しいと感じるDNAが刻み込まれている
アジサイはアジサイ科の低木で、アジアと南北アメリカに自生種があります。なかでも日本にはガクアジサイ、ヤマアジサイ、タマアジサイ、ツルアジサイ、またアジサイの仲間のノリウツギなど12種が自生し、万葉集の中にもアジサイを詠んだ歌があるほど古くから親しまれています。
アジサイをヨーロッパに伝えたのが、江戸の鎖国時代に長崎の出島にいたシーボルトであることはよく知られています。シーボルトが紹介したアジサイはヨーロッパで絶賛され、それを元にした交配から多くの品種が生み出されています。
ちなみに欧米ではアジサイのことをハイドランジアと学名で呼び、欧米で品種改良され、再び日本に戻ってきたアジサイはセイヨウアジサイと呼んでいます。
アジサイは土壌が酸性に傾くか、アルカリ性に傾くかで花色が変わります。ヨーロッパで改良されたアジサイにピンクの花色が多いのは、土壌がアルカリ性であるためといわれています。
さて、下田公園では日本の自生種のアジサイからセイヨウアジサイまで、じつに豊富な品種があり、花色だけでなく、花びらの枚数、花びらの形などの違いがわかり、それぞれの品種の豊かな個性を楽しむこともできます。そのため、海外からこの珍しい景色を見にくる方も年々増えているそうです。
アジサイに囲まれた絶景を味わいつつ、アップで花を愛でて、その魅力を再発見してみてください。
小高い丘全体がアジサイの花色に染まる絶景は一度見たら忘れられない。この時期の下田の名物といえば、アジサイともうひとつ・・・・・・
下田市では毎年アジサイの花期に合わせて6月1日から30日まで「あじさい祭」が開催されています。
祭りの開催中は、公園内で地場産品や苗などの販売があり、また歩き疲れのリフレッシュに効果抜群の地元柑橘の生絞りジュースもあります。
そしてこの時期、下田にはもうひとつお楽しみがあります。
下田港は金目鯛の水揚げ日本一で知られますが、この時期がいちばん脂がのっておいしいことから、「きんめ祭り」も同時開催されています。
万華鏡のように美しいアジサイの絶景を堪能したあとは、下田の街を歩いておいしい金目鯛をぜひご賞味ください。
下田城は豊臣秀吉と小田原の北条氏の激しい攻防戦となった舞台で、その城址が下田公園です。ペリーの黒船艦隊が来航したのも下田港。現在は伊豆でも有数の人気観光地ですが、下田の歴史を辿りながらの街歩きもとても楽しくおすすめです。
ひと株のアジサイが描き出す花色の美しいグラデーションに感嘆! 植物の中には花色が変化するものが多くあるが、アジサイの変貌はひときわ美しく、心を打たれる。写真/横田秀樹