患者とよく話し合って、乾癬治療のゴールを決める
各職種が専門性を発揮しながら有機的に連携するチームワークのよさが個別性の高い治療を提供する原動力に。東京医科大学病院皮膚科に開設されている「乾癬・掌蹠膿疱症外来」には、ほかの医療機関からの紹介患者を中心に約650人の乾癬患者と約200人の掌蹠膿疱症(膿(うみ)が溜まった皮疹が手のひらや足の裏に数多くみられる病気で、周期的に一進一退を繰り返す)患者が通院しています。
「人目が気になる皮膚病であるがゆえに患者さんの抱える悩みは深く、日常生活だけでなく、恋愛、結婚、出産などのライフイベントにも支障をきたします」と同外来で中心的に診療を担う同大学皮膚科学分野教授の大久保ゆかり先生は説明します。
乾癬がQOL(生活の質)に及ぼす影響について大久保先生たちが調査したところ、 男性より女性のほうがQOLが損なわれることが明らかになっています。しかも男性では年齢が上がるにつれQOLへの影響が減っていくのに対し、女性ではQOLが損なわれたままです。
「この結果は、女性にとって見た目が極めて重要であることを端的に示していると思います」(大久保先生)
メンタルに及ぼす影響も大きく、“自分は役に立たない人間だ”と考えるようになるなど自己肯定感が低下し、うつ傾向になる人も少なくありません。
大久保先生たちがQOL低下に及ぼす諸因子を調べた研究では、不安や不眠を抱える人は全体の約半数、うつ傾向の人も約2割存在していることが判明しています。
乾癬患者にはこのような背景があることから、同外来では治療で症状を改善することに加え、QOLを向上させることにも注力しています。
「診療において肝に銘じているのは“QOLと重症度は一致しない”ということです。体表面積に占める乾癬の割合が数パーセントだったとしても髪や爪など人目につく部位に発症するとQOLは非常に低下します。患者さんの悩みの深さは個別に聞いてみなければわかりません」と大久保先生はいいます。
そのため、同外来では患者の悩みを丁寧に聞き取り、どのように治したいのかをよく話し合って治療のゴールを決めています。
「季節やライフイベントで治療に求めることが変わるのは当然のことで治療目標は常に同じである必要はなく、そのつど確認し合うことが欠かせません。また、患者さんにはもっとよくなりたい、もっときれいになりたいということも躊躇せずに医師や看護師に伝えてもらっています。この想いを叶えることは、とても大切な目標であると私たちは考えているからです」