ハイクレア城に伝わるアフタヌーンティーのメニュー
ヴィクトリア時代からカナーヴォン家の台所で継承されてきたレシピもたくさんありますが、なかでもヴィクトリアバンはハイクレアならではの菓子パンです。
レーズンやオレンジピールなどが入っているスパイシーな菓子パンですが、ちょっと変わっているのは米粉も入る点です。小さい割には背丈があるといえます。
手前が月面のようにたくさんの穴の開いたクランペット。熱々の表面にバターをつけると、穴からバターがしみ込み、絶妙の味わいに。最近ロンドンのホテルなどのアフタヌーンティーでは、クランペットの姿がすっかり影を潜めてしまいましたが、もともとクランペットは伝統的なアフタヌーンティーの立役者でした。
イースト菌を入れた厚めのパンケーキのようなもので、表面は月面のようにボコボコ。その穴にバターがしみ込んだ熱々のクランペットは、やみつきになる美味しさです。
ヴィクトリア時代に考案されたヴィクトリアスポンジ、真っ赤ないちごと白いクリームが見た目にも美しい。もう一つ、英国のアフタヌーンティーを語る上で欠かせないケーキをご紹介します。
それが、ヴィクトリア女王が愛した、ワイト島の隠れ家「オズボーンハウス」の台所で女王のために作られたと言われるヴィクトリアスポンジケーキ。
コシのあるスポンジケーキにクリームとジャムが挟まれており、甘すぎず、あっさりした味が紅茶とよく合います。これもハイクレア城ではアフタヌーンティーの定番です。
手前がスコーン、左がジンジャーケーキ、右端がヴィクトリアスポンジケーキ。さらに、英国人はジンジャーの砂糖漬けなど、お砂糖とジンジャーを合わせるのが大好き。甘いながらもぴりりとした、なんとも言えないおいしさです。
美味なお菓子やサンドイッチをつまみながら、紅茶で喉をうるおす。6月のハイクレア城は緑がしたたるようで、美しい自然を眺めながらのアフタヌーンティーは至福のひとときです。
本物の英国式贅沢を味わえる時間が、今も変わらずに流れているのです。
いちごの季節には、あらゆるお菓子にいちごを用いるなど、旬の味覚を大切に。写真はスロトベリー・スポンジ・ケーキ。●フィオーナ・カナーヴォン伯爵夫人/ロンドン生まれ。6人姉妹の長女。 セント・アンドリューズ大学で英語とドイツ語を専攻、ロンドンで国際会計士として働く。1999年カナーヴォン伯爵と結婚。一人息子エドワードの母。ハイクレアのガイドブックをはじめハイクレア絡みの数々の著書をしたため、歴史家として知られる。趣味は乗馬、読書。オフィシャル・サイトは
https://www.ladycarnarvon.com/
●ハイクレア城に暮らす/ドラマ『ダウントン・アビー』で一躍脚光を浴びた英国ハイクレア城。その城に今も住む第8代カナーヴォン伯爵家の人びとのライフスタイルを、英国フリーライター山形優子フットマンが取材。貴族の暮らしに息づく英国文化をご紹介します。
(今までの連載はこちら) 山形優子フットマン/Yuko Yamagata-footman
フリーライター
上智大学文学部社会学科卒業。カルフォルニア州立大学心理学科でヒューマニスティック・サイコロジーを専攻、修士課程修了(ロータリー財団奨学生)。新聞記者を経てフリーライターに。在英約30年。イギリス人男性と結婚、3人の娘の母。著書に『憧れのイングリッシュガーデンの暮らし』(エディシォンドゥパリ)、『なんでもアリの国イギリス なんでもダメの国ニッポン』(講談社文庫)他。