旬を愛でる花旅・庭めぐり(38)これぞ至福の時間。初夏の庭で優雅なティータイム〜神奈川・浄妙寺 石窯ガーデンテラス
1922年にドイツ人の設計によって立てられたかわいらしい洋館。これがお寺の敷地内にあるとは誰も想像できないのでは? その意外性も石窯ガーデンテラスの人気の理由。溢れる緑に囲まれたテラスで美しい庭をじっくり堪能
「スノードロップが咲きましたよ〜」と、
1月にご案内した鎌倉の石窯ガーデンテラス。緑溢れるアジサイの美しい季節にぜひもう一度ご紹介したいと思っていました。
石窯ガーデンテラスのいちばんの特徴は、その立地にあります。1188年(文治4)に建立された浄妙寺の敷地内にあるのです。浄妙寺は鎌倉五山の一つで足利家ゆかりの由緒あるお寺で、その敷地内にはかつて貴族院議員が住まいとして使っていた洋館があります。1922年(大正11)にドイツ人の設計によって建てられた、こちらも歴史ある建物。
その洋館の庭がイングリッシュガーデンにリニューアルされ、広いテラスから美しい庭を眺めながら、ランチやティータイムを楽しむことができます。
お寺とイングリッシュガーデン、その意外性が話題となり、お客様もたくさんいらっしゃいます。
その庭をデザインし、現在も管理を任されているのがスコットランドから来日して17年になるガーデンデザイナーのニコラス・レナハンさんです。
スコットランドのエディンバラ生まれのニコラス・レナハンさんは日本在住17年。庭の管理で通っているので、見かけたら庭について気軽にご質問を。「石窯ガーデンテラス」をはじめ、多くの個人邸や集合住宅の庭をデザイン・管理している。庭をデザインするにあたり、ニコラスさんは1年を通してそれぞれの季節の魅力を伝えられるような植栽にしようと考えたそうです。そのため春のチューリップ、それに続くバラなど、ひとつの種類に特化した花選びではなく、基本は木々やリーフプランツで庭全体を緑で埋め、それを背景に旬の花が咲くという植栽構成になっています。まさにイングリッシュガーデン本来の姿です。
いつ訪ねても季節の美しさが堪能できる庭ですが、大きな観光庭園ではなく、こぢんまりした庭なので親しみやすく、私はいつも「この庭が自分の家の庭だったらなあ」と想像を膨らませて楽しんでいます。
その庭に、テラスでゆっくり時間を過ごすには最適な季節がやってきました。
手作りのアフタヌーンティーをテラスで味わえる幸せ
3段重ねのトレイに盛られたアフタヌーンティー。6月中旬からは旬のアジサイをイメージしたプチフールに。写真は2人分で、1人分2800円(税抜き)。1人分からオーダー可。石窯ガーデンテラスのもうひとつの魅力は、提供されるランチやアフタヌーンティーがどれもとてもおいしいこと。ディナー営業はなく、17時までの営業時間内であればいつでもランチメニューやアフタヌーンティーを楽しめます。
シェフの田丸義記さんにお話を伺うと、庭の雰囲気に合うようメニューにも英国風の要素を盛り込むようにしているのだそう。メニューやレシピはニコラスさんとニコラスさんの奥様の淳子さんの提案を取り入れ、イギリスから取り寄せた料理本を研究してできるだけ忠実に再現するよう心がけているそうです。
伝統的な3段トレイで供されるアフタヌーンティーのサンドイッチも英国風の薄い食パンを使ったフィンガーサンドイッチで、スモークサーモンとローストビーフを挟んでいます。
また、2段目に載せられたスコーンは、日本人の好みに合うよう少しバターを多めに使いリッチな味わいに。3段目のプチフールは、このアフタヌーンティーのためだけにすべて手作りしているそうで、とても丁寧な仕事ぶりにいつも驚いています。
私がここを何度も訪ねるのは、もちろん庭が素敵なこともありますが、じつはこのアフタヌーンティーが食べたくて食べたくて・・・・・・。プチフールは季節ごとに内容が替わるので、それを味わいにまた出かけたくなってしまうのです。
シェフの田丸義記さん。英国風を意識しつつ、庭にある旬の花をイメージしながらプチフールを創作。ローストビーフやパスタのランチもとてもおいしいのでぜひご賞味ください。テラスのテーブルからの美しい眺めに心癒やされる
大株に育ったシャスターデージーやスカビオサ、アイリスなど初夏の花が咲く中に、バラが交じったナチュラルな景色が、この庭の魅力。小雨程度なら屋根付きのテラスもあるので大丈夫。むしろ雨に濡れて庭の緑が生き生きときれいに!多くの庭を訪ね歩いていると、色とりどりの華やかな景色より、心落ち着く風景の中に身を置きたくなることもあります。
浄妙寺・石窯ガーデンテラスの庭は周囲を小山に囲まれているため、とても静かで、5月末に訪ねた際には春先より上手に歌えるようになったウグイスが美声を響かせていました。
庭ではバラが旬の彩りを添え、さまざまな宿根草がぐんと成長しボリューム感もアップ。
ニコラスさんがコーディネートする植栽は、特別な花を使うわけではないながら、個性豊かでかつ繊細さに溢れ、見飽きることがありません。
池のほとりの花壇では、5月に花を咲かせたニゲラがかわいらしい風船のような実をたくさんつけています。ニコラスさんが毎年冬にタネまきして大切に育ててきたニゲラなので、ぜひそのユニークな姿を探してみてください。
また、今はちょうどアジサイの旬で、さすが浄妙寺は鎌倉のお寺だけあり、境内のあちこちがアジサイの美しい花色に染まっています。洋館の入り口にはアジサイより少し開花の遅い‘アナベル’が、大きなボール状の花房をたくさんつけ、圧巻の景色に!
エントランスの前庭は、この時期アジサイ‘アナベル’が大きな花房をたくさんつけ、ボリューム感のある見事な景色に。最近登場して人気急上昇の‘ピンクのアナベル’もとてもかわいらしく、またリニューアル前からここにあったヤマアジサイの清楚な美しさにも心惹かれます。
庭を歩きながら間近で花を愛でたり、また少し高い位置にあるテラスから庭全体の景色を楽しんだり、ゆっくりじっくり庭の魅力をご堪能ください。
庭は疲れた心を癒やすと同時に、ときめきを与え、元気な力を甦らせてくれるもの。
テラスでゆっくり過ごすひとときは、本当に心地よく、本来の庭のあり方を思い出させてくれます。