人間の凄まじさが滲む映像
「万引きしながら生活しているような、社会から外れていく人間だから、歯もろくにない婆さんがいいかなと思って」というように、今回、希林さんは役づくりのため入れ歯を外し、髪を伸ばしている。
「私自身、年寄りが髪をまとめず長くしているのは好きじゃないので、我慢しながら伸ばしたんです。歯や髪、あとは爪とか、伸びるものには気持ち悪さがあるので、人間の凄まじさが滲むような映像になればと思って、やってみたんですけどね。普通、女優はきれいなところを見せたいから、そういうことはしないけど、私は女優という意識もないし。自分の顔に飽きてきていたので、ちょっと変えたかったということもありました」
どういうかたちであれ、かつては自分が世の中に残ることがいやだったから、一過性のテレビの仕事をしていたと話す希林さんだが、最近は是枝監督同様、海外での評価が高い河瀨直美監督や、骨太なドキュメンタリー作品で知られる東海テレビが制作する映像など、残る作品への出演が続いている。
「昔はローンを返すためにあれもこれも引き受けて働いていたし、演技をして何か評価を得たいという気持ちもなかったので、消えてしまうことも含めて、テレビは私にとって都合がよかったんです。ただ、それでくたびれちゃった頃に、がんができちゃって。治療との兼ね合いのなかで生きることになって、自分ができる仕事の分量が限られてきたとき、選んだわけじゃなく映画の仕事が増えていきました」
近年の出演作を見れば、希林さんの選択には筋が通っていると感じられるものの、ご自身は、「結果的にそう見えるかもしれないけど、本当に来た順にやっているだけ。だいたい私のやることは行き当たりばったりです」と、さらりとかわす。
