潔さ、明るい諦念
『神宮希林 わたしの神様』©東海テレビ放送 監督/伏原健之神宮の正殿前に掛けられている御幌。参拝者のあいだでは 、御幌が上がるのは神々に歓迎されたしるしといわれている。2礼2拍1礼して、頭を下げているあいだ、希林さんはその気配を感じたというように、御幌が上がった様子は映像にも残されている。2013年、式年遷宮の年に初めて伊勢神宮に足を運んだ希林さんを追いかけたドキュメンタリー映画『神宮希林 わたしの神様』。
その冒頭で流れる、“過去の写真の2次使用は、どうぞご自由に”という留守番電話の応答メッセージや、映画の中盤、伊勢の某所で、記念の品をわたそうとする店の女性と希林さんの“あげる・いらない”のやりとりのシーンなど、そのきっぱりとした態度に希林さんの、人としての潔さがのぞく。
「写真の2次使用許可の依頼がいくらでも来るんです。いい迷惑だから、ああやって留守番電話でいっているのに、(書類に)判を押してくださいとか……勝手にしろと、いいたくなりますよ」
それでも事務所に所属せず、マネージャーもつけず、こうした事務をご自身で引き受けるのは、がんになったことで先が見えているのに、マネージャーの人生に責任を負うことはできないからだという。
「留守番電話もあるし、それで通じないなら仕方ないわけで。今までも、この役を他の人に持っていかれたら嫌だと思ったことなどないし、どうぞ持っていって、持っていってという感じですから。人間が抱えられるものには限度があって、それ以上、抱えようとしても抱えきれない。
だから洋服でも物でも、いいねといわれた物はあげてしまう。あげることで、物が生きるでしょ。その代わり、自分はもらわない。『神宮希林』でも、あの女性はずっと(私に)いろいろいっていましたよ。ああいう映像は撮りたくて撮れるものじゃないし、あのシーンを使うのが、つくり手のおもしろさでしたね」
世に“希林節”などといわれるように、歯に衣着せぬことばは潔さだけでなく、明るい諦念を感じさせてくれる。多くの監督が、希林さんを想定して脚本を書くなど、つくり手からの絶大な信頼、その理由は、映画を見た人なら、納得できるだろう。
樹木 希林/Kiki Kirin
1943年、東京都出身。文学座付属演劇研究所第1期生。
70年代に『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』などのテレビドラマで人気を得る。14年に旭日小綬章受章。
公開中の『モリのいる場所』では、熊谷守一の妻・秀子を演じ、山﨑努さんと初共演している。
©『万引き家族』製作委員会『万引き家族』監督・脚本・編集/是枝裕和
音楽/細野晴臣 出演/リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城 桧吏、佐々木みゆ、樹木希林
2018年 日本映画 120分 6月8日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎
「家庭画報」2018年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。