生命科学が進むにつれて、以前は働きが不明だった物質が大きな役割を果たしているとわかることがあります。マイクロRNAはその代表といえるでしょう。がんの超早期診断からその他の病気の予防まで、マイクロRNAを研究する東京医科大学教授の落谷孝広さんに研究の現状と臨床応用について聞きました。
未来を創ろうとしている人:
落谷孝広(おちや たかひろ)さん
東京医科大学 大学機能関連分野 医学総合研究所 教授国立がん研究センター
研究所分子細胞治療研究分野 プロジェクトリーダーそれぞれのがんに特徴的なマイクロRNAを検出する
病期がⅠ期、Ⅱ期、あるいはそれよりも早い、超早期のがんを見つけられるという検査法が間もなく実現されようとしています。
この研究を進めているのは、東京医科大学大学機能関連分野 医学総合研究所 教授で、国立がん研究センター 研究所 分子細胞治療研究分野 プロジェクトリーダーの落谷孝広さんです。
落谷さんが研究しているのは、遺伝物質として知られるRNA(リボ核酸)の一種のマイクロRNA。RNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4つの塩基で構成され、その並び方や長さによって機能が異なります。
マイクロRNAは名前のとおり塩基が20〜25の短いRNAで、遺伝情報そのものは持っていませんが、ほかの遺伝子の働きを調節するという重要な役割があります。
このマイクロRNAは正常細胞からもがん細胞からも放出されていて(4ページ目参照)、がん細胞が出したマイクロRNAを捕まえることで、がんを早期に発見することができるのです。
これまで健康診断や人間ドックのオプション検査として行われている腫瘍マーカー検査(CA19-9やCEAなど)は、病期が進むほど検出率が高くなるため、病期がI期のような早期のうちには検出が難しく、また、がんではないときにも陽性を示すこと(偽陽性)があります。
一方で、マイクロRNAを使えば、がんの大きさや進行具合によらず、しかもがんの種類を特定できます。
「検出される確率(感度)と実際にがんである確率(特異度)がともに95パーセント以上で、診断にはほぼ間違いがないといえます」と落谷さん。これまで早期発見が難しかったすい臓がんや卵巣がんに適用できる点も大きなメリットです。