エクソソームとマイクロRNAとは?
その特徴は?
細胞から分泌され、情報伝達物質として働く
人間が消化・吸収・代謝・排せつをするように、細胞自体も活動するために同じような仕組みを備えています。細胞の中で物質の分解や再利用、輸送などを担っているのがエンドソームです。
落谷さんらが研究しているエクソソームはエンドソームから出された、いわば「細胞のゴミ箱」。そこには細胞が要らないと判断したものが詰まっていると考えられてきました。
ところが、2000年代にこのエクソソームの中にマイクロRNA(miRNA)が入っていることがわかり、エクソソームとマイクロRNAは細胞間の情報伝達物質であるという可能性が出てきたのです。
エクソソームは脂質でできた二重膜に包まれていて、その表面に突起を持っています。その突起で細胞を見分け、細胞に取りついて、マイクロRNAを作用させるのではないかと推測されています。
落谷さんらは2015年に、乳がん細胞が放出したマイクロRNAを含むエクソソームが脳に移動することを突き止めました。この現象は乳がんの脳転移と関連しているのではないかと考えられています。
その研究の歴史は?
2000年代後半から急速に研究が進む
1983年細胞から排出される、膜に包まれた物質が発見され、数年後にエクソソームと名づけられる。
1993年短い塩基の鎖を特徴とするRNAが発見され、2001年にマイクロRNAと名づけられる。以降、マイクロRNAはほかの遺伝子の発現を調節する働きがあることが次第にわかってくる。
2007年エクソソームにマイクロRNAが含まれていることをスウェーデンの科学者ヤン・ロトバルさんらが発見。
2010年落谷孝広さんらの研究グループが、マイクロRNAを含むエクソソームが情報伝達物質として働くことを報告。また、マウスを用い、母乳に含まれた母親のマイクロRNAが子どもの細胞で働くことも明らかにした。
2015年落谷さんらが、乳がん細胞から分泌されるエクソソームが脳血液関門を超えてマイクロRNAを運び、脳転移にかかわる可能性があることを報告。
2017年国立がん研究センター中央病院などで、13種類のがんに関連するマイクロRNAを血液で調べる臨床研究が始まる。
落谷孝広(おちや たかひろ)さん
1988年大阪大学大学院医科学研究科博士課程修了、医学博士。
大阪大学細胞工学センター助手を経て、91年米国ラホヤがん研究所研究員、92年国立がんセンター研究所主任研究員となる。
93年同研究所分子腫瘍学部室長、98年同研究所がん転移研究室室長、2010年分子細胞治療研究分野分野長。18年より現職。
取材・文/小島あゆみ イラスト/Ⓒtock〈LAIMAN〉(タイトル)、にれいさちこ(本文)
「家庭画報」2018年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。