旬を愛でる花旅・庭めぐりとは…毎週水曜日は、ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが“今が旬”の花の名所情報をお届け。今回は里山に広がる美しいハナショウブの景色をご紹介します。
旬を愛でる花旅・庭めぐり(39)梅雨の景色を鮮やかに塗り替えるハナショウブの名所〜兵庫・永沢寺 花しょうぶ園
自然豊かで静かな里山の水田が、この時期はハナショウブの美しい花色に染まる。標高560mと少し高い位置にあるため、温暖地より花期は少し遅く、7月上旬まで楽しめる。ハナショウブの旬は梅雨時。今まさに旬の景色を見に行こう!
梅雨時に咲く花といえばアジサイがすぐに思い浮かびますが、ハナショウブもこの時期が旬になります。
ではここで問題です。5月の端午の節句に厄除けなどの目的で入るショウブ湯。それに使われるショウブとハナショウブは同じでしょうか?
植物名が似ているので誤解されやすいのですが、ショウブはサトイモ科、ハナショウブはアヤメ科と、科が異なる別の植物です。アヤメ科にはアヤメ、カキツバタ、ハナショウブとよく似た花がありますが、3種の中でいちばん開花時期が遅いのがハナショウブです。
端午の節句のショウブ、そして5月から開花するアヤメなどと混同して、ハナショウブの旬も5月〜6月と認識されやすいのですが、ハナショウブが咲くのは6月上旬〜7月上旬、ちょうど梅雨の盛りにひときわ美しく咲き誇ります。
ハナショウブも今年の開花は早めで、うっかり旬を逃してしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方にもおすすめの、これから旬を迎える名所をご紹介しましょう。
兵庫県三田市の永沢寺にある「花しょうぶ園」。四方を山に囲まれた静かな里山に佇むハナショウブの名所は、標高560mと少し高い場所にあるため、平地より開花が遅くなります。7月上旬までは、里山の水田に輝くように咲くハナショウブが楽しめますので、ぜひ訪ねてみてください。
水田に咲くハナショウブと水車。なんともフォトジェニック!素敵な1枚をぜひご自身で撮影してみて。白いもやの中に浮かぶ鮮やかな花色に魅了される
「永沢寺 花しょうぶ園」の永沢寺は、その地にある1370年建立の永澤寺に由来する地名です。ちなみに地名の永沢寺は「えいたくじ」、寺院の永澤寺は「ようたくじ」と読みます。
永沢寺は周囲を山に囲まれ、現在でも豊かな自然が残る地で、そこに自生していたハナショウブを生かし、本格的な回遊式庭園としてオープンしたのが「永沢寺 花しょうぶ園」です。水田に植えられたハナショウブは約600種、300万本。その規模でも日本屈指のハナショウブ園といえます。
紫、青紫の濃淡からピンクのグラデーションに心癒やされ、いつまでも見ていたくなる。ハナショウブは野生のノハナショウブをもとに江戸時代に盛んに品種が育成されました。その江戸系のほか、江戸系をもとに改良された肥後系、また伊勢松坂地方の自生種を元に改良された伊勢系。そして日本のハナショウブが欧米に渡り改良された欧米系などがあり、「永沢寺 花しょうぶ園」ではそれらの代表的な品種を見ることができます。
系統により、花と葉のバランスなど細かい違いがありますが、すっと立ち上がり気高い花を咲かせる凜とした美しさは、変わらずとても魅力的です。華やかな中にどこか和の趣も感じられ、さまざまな文化が花開いた江戸の粋を今でも色濃く残す花のひとつではないかと思います。
花一つひとつを愛でるのも楽しいのですが、「永沢寺 花しょうぶ園」の魅力は、なんといってもスケールの大きな景観にあります。山あいの地ではもやがかかりやすいのですが、白く霞む世界に鮮やかな花色が浮かび上がる景色は息を飲むほど美しく、一度見たら忘れられない情景です。
梅雨時を旬とする花らしく、雨降る中に咲き誇る景色も叙情的で、ここで一句、俳句でもつくれたら素敵なのに、と自身の才能のなさを残念に思いました。
紫の花色、美しい絞り。粋な着物を思わせるような花が凜と咲く姿に一目惚れ。ハナショウブは黄色やピンクなど花色も豊富にあるが、やはり紫系の濃淡が多く、その粋な配色を眺めながら江戸の時代に思いを馳せるのも楽しい。花しょうぶ園にはぜひ味わいたい名物もあり!
さて、「永沢寺 花しょうぶ園」にはもう一つ名物があります。三田市では昔からソバの栽培が盛んで、おいしいそば屋がたくさんあり、園内にも「水無月亭」という評判のそば屋があります。
ここの名物は丼いっぱいに広げられた大きな油揚げの入ったたぬきそば。関東で生まれ育った私にとっては、たぬき=揚げ玉、そしてきつね=油揚げなので、初めて食べたときにはかなり驚きましたが・・・・・・。
通常は水曜定休ですが、ハナショウブの開花期間は無休で営業していますので、ぜひ帰りに立ち寄ってみてください。
そして、ハナショウブを愛でたあとには、地名の由来となった永澤寺にもお立ち寄りください。このあたりはかつては摂津と丹波の境にあり、京都からは西へ、大阪からは北へ、どちらも1日で行ける立地にあったため、山あいにありながら、戦略的に重要な地だったそうです。そのため足利幕府の命で建立されたのがこの寺です。
花と仏とソバの里。心もお腹も満足の一日が過ごせる花旅へ、旬を逃さぬようにお出かけください。
東屋や灯籠がアクセントに入ると景色がいちだんと魅力的に。この和の趣ある景色に惹かれ海外から訪れる方も年々殖えているそう。