「演じることだけではない、人間として豊かになることに、今は興味があります」
ドレス/シャネル オートクチュールうっすらと焼けた肌は、家族で過ごした南の島でのバカンスの名残という。シャネルのオートクチュール コレクションをまとい、内に潜む多面性を体現するかのように、あるいはさまざまな女性像を演じるかのように。
集中したフォトセッションののち、穏やかな表情でシャネルへの思いを語ってくれました。
「愛をもってつくられた服、刺繡やビジュー、縫製に至るまで大事につくられたものは、やっぱり欲しくなりますね。高価ですけれど、高価なのにはちゃんと意味があって、いいものには時代を超える力がある。シャネルはそういうブランドだと思います。
普段ドレスを着る機会がそんなにあるわけではありませんが、娘ができたとき、これは自分の手もとだけでは終わらない、娘に渡すことができるんだなと思ったら、手に入れることに躊躇がなくなりました」。そう、母の顔もにじませて。
春が早足でやって来た今年3月、「宮沢りえさん結婚」の報が、日本中を駆け巡ったのは記憶に新しいところ。
デビューから現在に至るまでの歩みを振り返る映像に、私たちは一人の美少女が大人の女性へと成長を遂げ、唯一無二の存在感を湛える女優へと成熟を深めていく過程を改めてつぶさに目にすることとなりました。
「昔の自分って、なにか『別物』という感じ。肉体も心も本当に無垢で、その時期にしか発することのないキラキラとした輝きを放っていて。客観的に可愛いな、と思います(笑)。
でも、それを羨む気持ちはないですね。なぜなら経験ほどおもしろいものはないから。今までに経験してきた時間のほうが、私にとっては貴重です」
トップアイドルとして駆け抜けた10代から演じることが中心となった20代へ。30代は舞台への挑戦を自分に課し、ストイックなまでに自己と向き合い表現者としての経験を重ねてきました。40代の今、演じるたび、その磨かれた表現力は見る者の心を熱く揺さぶります。
「15歳から始めて、演じることをもう30年もやってきて、すごく豊かな時間を過ごすことができました。こうして経験を重ねてこられたことで、今の自分がいるのだと思います。
でも今、人生の全部を演じることだけに費やしたくはないという気持ちが強くなってきたんですね。演じるということではない自分が、今はとっても大事で、もっと根本的な部分というのか、自分自身の人間としての豊かさをつくることのほうに興味があります。一人の女として、人間として、もっと豊かでありたいなと思う。
とはいっても、具体的に何をするということはまだないんです。ただ、自分だけが気持ちいいとか、楽しいとか、そういうことではダメだろうな。
年を重ねるにつれて、人のためになるような生き方をしたい、漠然とですが、そんなふうに思っています。種をまいて、栄養を与えて、どんな花を咲かせるのか……。今は、せっせと水をやるばかりです」
時に可憐に、時に鮮やかに。どの年代でもひたむきに演じることと向き合い、心に残る花を咲かせてきた宮沢りえさん。
新たな境地で豊かに紡ぐ時間が、今度はどんな花を咲かせるのか、楽しみに待つことにしましょう。
宮沢りえ
女優。1973年東京都生まれ。
1987年CMで一躍脚光を浴び、翌年映画『ぼくらの七日間戦争』の主演で女優デビュー。
以降、映画、ドラマ、舞台、CMで幅広く活躍。『たそがれ清兵衛』(2002)、『紙の月』(2014)、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞する。2017年第25回読売演劇大賞で大賞を受賞。
撮影/宮崎裕介〈SEPT.〉 スタイリング/仙波レナ ヘア/TAKU〈CUTTERS〉 メイク/Tomohiro Muramatsu〈関川事務所〉 取材・文/河合映江 撮影協力/バックグラウンズファクトリー
「家庭画報」2018年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。