いかにも長男らしく、ちょっとおっとりした穏やかな雰囲気。歌舞伎の話になると熱っぽくなる。――踊りは以前から好きだったのですか?
「子どもの頃から好きでした。うちは中村流という流派で、伯母(中村流家元・2代目中村梅彌さん)が僕の師匠なんです。踊りは歌舞伎の基礎ですし、憧れていた踊りの演目や、憧れの先輩が踊っていた振りをやらせてもらったりすると、やっぱり嬉しいですね」
――踊る時に心がけているのは、どんなことでしょう?
「舞台に立ったら考えすぎず、楽しんで気持ちよく踊るようにしています。若いからできる特権だとは思うんですが、色々気にして縮こまって踊っていたら、ご覧になる方も気持ちよくないと思うので。あとは“脱線”しないこと。跳んだり、跳ねたり、派手な動きをするとわかりやすいですし、お客様には受けるかもしれませんが、お行儀が悪すぎると日本舞踊ではなくなってしまいます。お客様には、振りや歌詞の意味はとりあえず置いておいて、まずは踊り手が音楽に乗せて踊る姿をただ楽しんでいただけたらと僕は思っています」
――次男の福之助さんと三男の歌之助さんも歌舞伎の道へ進んでいらっしゃいますね。
「はい。親族に歌舞伎役者のヒーローがたくさんいるお陰で、3人とも小さい頃から“ああいうふうになりたいな”と憧れを持つことができました。同級生がテレビを見て『〇〇レンジャー、カッコイイ!』と言っているのと同じように、僕達は歌舞伎座で父や福助の伯父、亡くなった祖父や勘三郎の伯父達を見て、カッコいい!と思っていましたから。しかも家に帰ると、その人達が一緒に遊んでくれたりするんです。自分が歌舞伎や踊りを好きになったのは、そういう環境のお陰です。忙しい中、歌舞伎座や先輩方のお芝居に足しげく連れて行ってくれた母(三田寛子さん)にも、とても感謝しています」
――弟さんたちとはお芝居の話をするのですか?
「高校生頃までは、すぐ下の弟と『あの役やりたいね』とか『将来、ああいう演目を一緒にやろう』という話をよくしていました。でも今は、福之助もほぼ毎月、歌舞伎の興行に出させてもらっていて、仲間であり、ライバルでもあるので、話す内容がだいぶ変わりましたね。熱くなって、芝居のことで喧嘩することもあります」
――今回の舞踊公演への出演について、ご家族の皆さんは何かおっしゃっていますか?
「実は最初に父に、こういう話をいただいて、やりたいんですが……と相談したんです。でも父は、芝居や踊りに関してはほぼ何も言わないので、『お前がやりたいなら、やればいいよ』という答えで。母には、舞踊家の方々の踊りや、お稽古に対する向き合い方を吸収できるいいチャンスなのだから、しっかり揉まれて色々見てきなさいと言われました」