旬を愛でる花旅・庭めぐりとは…毎週水曜日は、ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが“今が旬”の花の名所情報をお届け。今回は素晴らしい景観の中で「ヒマラヤの青いケシ」が群れ咲く高山植物園をご紹介します。
旬を愛でる花旅・庭めぐり(41)北アルプスを望むロックガーデン「ヒマラヤの青いケシ」咲く〜長野・白馬五竜高山植物園
「白馬五竜高山植物園」に咲く「ヒマラヤの青いケシ」。自然が生み出したこの美しい花色に思わず感嘆!これほどまでに美しい青の花を見たことありますか?
バラ、カーネーション、ダリア、キク、チューリップ・・・・・・。いずれも花色が豊富に揃うことで知られていますが、その中に足りない色があります。それは「青」。紫や青紫はあっても、純粋な青や空色、水色などの青みをもつ品種は見当たりません。
だから、20数年前にイギリス・ロンドンで開催されたチェルシーフラワーショウで初めて「ヒマラヤの青いケシ」を見たときは、「こんなに美しい青の花が存在するのか!」と本当に驚き、しばらくその場を離れることができませんでした。
ブルーの花色を生み出すために育種の努力が長く続けられているものの、いまだに本当に青いバラやカーネーションは誕生していません。それなのに自然はいとも簡単にこれほど美しいブルーを生み出すのかと、少しジェラシーに近い感情も覚えました。
「ヒマラヤの青いケシ」はケシ科メコノプシス属の中の青い花のことを指し、正式には学名のメコノプシスで呼ばれます。本来は中国の雲南省の高山地帯に咲くメコノプシス・ベトニキフォリアを「ヒマラヤの青いケシ」と言いますが、ヒマラヤに咲くさらに青みが美しいメコノプシス・グランディスのほうがその名にふさわしいとも言われています。また、標高4000mの高地に自生し、そこまで登った者しか見ることができないことから「天上の妖精」「幻のケシ」などと言われるメコノプシス・ホリデュラも美しい青みをもちます。
いずれも寒冷な気候でないと育たない花で、温暖地では自生して花を咲かせる姿はお目にかかれません。
その「ヒマラヤの青いケシ」が自生し、今ちょうど旬を迎えているのが北アルプスを望む標高1515mにある「白馬五竜高山植物園」です。
スイスアルプス・ヒマラヤエリアのロックガーデンに咲くメコノプシス・グランディス。「ヒマラヤの青いケシ」の中でもいちばん美しい青花。ゴンドラとリフトでの山頂までの天空散歩も楽しい
標高1515mにあるアルプス平までは8人乗りのゴンドラ「テレキャビン」で手軽に移動できる。そこからペアリフトに乗り換えて山頂へ。地蔵ケルンから望む北アルプスの絶景は胸が透く美しさ。「白馬五竜高山植物園」はエイブル白馬五竜アルプス平に広がり、300種以上、約200万株の植物が楽しめる日本有数の高山植物園です。
アルプス平までの道のりは8人のりのゴンドラ、さらにペアリフトを乗り継げばよいので、登山の覚悟で行く必要はなく、どなたでも手軽に高地に咲く花を訪ねることができます。ただし、歩きやすいシューズは必携。また、標高が高いので7月でも涼しいので、羽織りものをお忘れなきように。
「ヒマラヤの青いケシ」が群れ咲くのは、海外種の高山植物を集めたスイスアルプス・ヒマラヤエリア。位置的には中腹よりやや下ですが、下から歩いて登るより、ペアリフトで植物園の山頂まで行き、さまざまな花々を見ながら下ってくるのがおすすめのコースです。
ガーデンではこれほどきれいな青の大きな花を見ることがないのでは。うつむきがちに咲く可憐な姿も魅力的。ロックガーデンに咲く「ヒマラヤの青いケシ」はおもにメコノプシス・グランディス。メコノプシスの中でもとくに青が美しい品種です。晴れた日に訪れると、その景色はまるで空の色が地面に散ったように見えます。青空を仰いでは、地面の青い花に視線を落とし、その色の似ていることが楽しくて私は何度も繰り返しました。
メコノプシス・グランディスは花のサイズが大きいことも魅力です。薄紙のように繊細な質感の花びらを広げ、ややうつむき加減で咲く姿は何ともエレガント。
庭で見るデルフィニウム、ワスレナグサ、ブルースター、ビオラなどには、きれいなブルーの花色もあります。けれど、いずれも小花で、メコノプシス・グランディスほど大きくて美しい空色を持つ花は本当に珍しいと思います。珍しすぎて、何だか違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。私も「この花色、あり得ない!」と感じましたから。
植物園の展示で「ヒマラヤの青いケシ」を見る機会もありますが、それもこれほど雄大な自然の中で自生する姿を楽しめるのは、この植物園ならではだと思います。花が楽しめるのは7月いっぱいまで。ぜひ美しい青で心を癒やしてください。
高山植物の素朴な美しさに心打たれる
この時期の「白馬五竜高山植物園」には「ヒマラヤの青いケシ」のほかにも、見頃の花がたくさんあります。
まずは高山植物の女王とも呼ばれるコマクサの群生。ケマンソウ科の花で草丈は10〜15cm。地面に近いところで濃いピンクの可憐な花を咲かせます。小さな花なのにとても丈夫で力強く、ほかの花が咲かないような厳しい環境の高山帯を好んで咲く孤高の姿に心惹かれるファンが多くいます。コマクサは8月まで見られます。
高山植物の女王として人気のコマクサの群生。草丈が低く小さな花だが、根はしっかり広く地面に張る逞しい性質。そしてもう一つ、ぜひ探してほしいのがエーデルワイスです。キク科の高山植物でミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌で広く知られています。歌は歌えても花が実際に咲く姿をご存じない方も多いと思います。エーデルワイスとはドイツ語で「高貴な白」という意味。フランネルフラワーに似たビロードのような質感の花びらをぜひ間近でご観賞ください。
小さく楚々とした花ながら、厳しい環境に負けない逞しさをもつ高山植物には、心にまっすぐ響く魅力があります。記憶に強く残る花を愛でに、出かけてみてはいかがでしょう。
フランネル生地のような柔らかな手触りの花びらが個性的なエーデルワイス。日本の高山植物、ハナウスユキソウの仲間。ピンクのシモツケソウの群生が、地面を華やかに染め上げる風景もちょうど見頃。バラには高山に咲くものもある。これは日本の固有種のタカネバラ。ハマナスに似た一重の花が楚々とした美しさ。