京都の「おまわり」がバリ島にもあった?
「おばんざい」で知られた大村しげさんだけに、現地の食事についてもユニークな視点で多くの情報を書き記しています。著書『京都・バリ島 車椅子往来』(中央公論新社)の中に、「バリ島のレストランで、わたしは決まってナシ・チャンプルを注文する」との一文がありました。ナシ・チャンプルは日常的な食事で、ご飯を中央にして周囲におかずを並べたものです。おかずは、自分の好きなものを選んだり、お店の定番だったりとさまざま。
それを見た大村さんは京都の「おまわり」と同じであると感激して記述しています。今では使われることのなくなった「おまわり」とは、京ことばで「おかず」のこと。実はおばんざい以外に、日常のおかずを指す言葉として、おまわり、おぞよ(御雑用)があります。
「聞くところによると、宮中の女房方は、うつわのまん中にご飯を盛り、まわりにおかずをとって、召し上がるのやそうな。(中略)いつか、おまわりということばは、下々にも伝わって、町家でも使われるようになった」(『ハートランド バリ島 村ぐらし』淡交社)と大村さんは、うれしげに自らの発見を紹介しました。
こちらは高級ホテルのナシ・チャンプル。盛り付けが上品にアレンジされています。手前にあるのはサテと呼ばれる串焼きです。サテのなかでも鶏肉を使ったサテ・アヤムは大村さんのお気に入りでした。一般的なナシ・チャンプルの一例。自分で好きなものを取り、このように、ごはんの周りに並べる場合も。筆者がゴアラワ寺院近くのレストランで食べた魚のすり身を使ったナシ・チャンプル。ご飯とおかずを別々に食べていると、現地の方はおかずをご飯の器に移して食べていました。アチャラ漬けもバリ島から日本に伝来?
現地の代表的なメニューである、インドネシア風の温野菜サラダ、ガドガドについても興味深い一文があります。大村さんの食べたガドガドには大根と人参を使ったアチャールという酢の物が入っていて「日本でいうアチャラである。アチャールとアチャラ。ふしぎなご縁である。(中略)アチャラという名はアチャールからきているような気がする」(『アユとビビ 京おんなのバリ島』新潮社)と述べています。
こちらはホテルのレストランで上品に盛り付けられたガドガド。通常、ピーナッツソースをかけて食べます。アチャールについて、京都にかつて朔日(1日)と15日に大根と人参のなますを作っていた習慣があったことも交え、大村さんはバリと京都の食文化との共通性を書き残しました。
車いす生活になったことで、京都の町家ぐらしを断念し、バリ島へ移住した彼女。しかし著書を読むと移住後は京都への未練や悲壮感は感じられず、バリ島の暮らしを楽しんでいた雰囲気が伝わってきます。島の暮しを楽しめたのは、持ち前の好奇心から多くの京都の生活や文化との共通性を見つけることに喜びを感じていたからかもしれません。