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特別インタビュー Mr.馬が語る、上海・アマンヤンユンの知られざる物語

2018.07.30

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たった1人で移築計画を始めた17年前。27歳の情熱が実現させた奇跡




故郷の江西省撫州市を離れ、上海に出て起業したマ・ダードン氏。アマンヤンユンが誇るカルチャーサロン“楠書房”にて。

――村から解体して運んだ50軒の伝統家屋を26棟の客室、レジデンス、カルチャーサロンとして再建されたわけですが、建物を拝見して、楠や石使いへのこだわりを感じました。


マ・ダードン氏(以下、M、敬称略) :中国では、楠は魂と精神が宿る“聖なる樹”として、特別に考えられています。世代を超えて子孫を守ってくれるご神木であり、長寿のシンボルでもあります。常緑樹で、沈静効果があるいい香りもしますしね。


また、私が生まれ育った村の近くには、チャイニーズマーブルや御影石など、いろいろな種類の石が豊富にあり、楠の森もあったので、昔からの伝統として邸宅にも使われていたのです。

移築した、いにしえの建物は建材や装飾などの石も生かしてアンティーク ヴィラやアンティーク レジデンスとして再建しましたが、新たに建てたミン(明)コートヤードスイートのほうにも故郷の石を切り出して使ったので、石の統一感があるのではないかと思います。


アンティーク ヴィラNo.6の外観。外壁に使われている石も、上海のこの地で1つ1つ手で積みあげられ、再建されました。伝統家屋の解体、輸送、そしてアンティーク ヴィラ、アマン レジデンスとしての再建。マ・ダードン氏の情熱が、16年の月日をかけ、ほかのどのホテルとも違うアマンヤンユンを誕生させたのです。

――この邸宅はどういう方々が造られたのでしょう?


M:今から350〜400年ほど前、皇帝の側近として仕える役人を選抜する試験が始まったのですが、撫州は逸材を数多く輩出したことで知られています。
紫禁城でのお勤めを終え故郷である撫州に戻った人々が、長年貯めてきたお金で建てたのがこれらの邸宅だったといいます。

――お茶やお香などの中国文化を学ぶカルチャーサロン“楠書房”は、アマンヤンユンならではの知の象徴だと感じましたが、楠書房への思いをお聞かせください。


M:実は、ある時“金絲楠(ゴールデンシルクナムー)”の樹や家具を手に入れることができたのです。金絲楠は、楠のなかでも最上級の特別なもので、絹のような手触りや沈静効果の高い香りが特徴の稀少な樹です。

これは、皇帝とその一族が居住し、政治の舞台でもあった北京の紫禁城だけで使われていた本当に特別なものなので、それを有意義に使うのが使命だと思いました。

今では金絲楠そのものの数が少ないので、新たに伐採することは禁じられており、アンティークのものをそのまま使うか、リメイクすることしかできません。

私には、真の中国文化を次世代以降にしっかりとつなげていきたい想いがあります。自分も、いにしえの建物や文化に触れて浪漫を楽しんでいるように、子孫たちにも楽しんでほしい。

特に、明時代のデザインは今見ても非常にハイレベルな家具ばかり。そんな気持ちから、紫禁城で使われていた高貴な楠を勉強部屋の家具として生かしたい、再生させたい、そう考えたのです。アマンヤンユンの“楠書房”では本物の金絲楠に触れることもでき、とても貴重な時間を過ごせるのではないかと思います。


アンティーク ヴィラは、高い天井や太い木の梁、意匠なども元の伝統家屋をそのまま生かした造り。木と石と水が美しく調和した建物に、約400年の夢と浪漫が込められています。

――足掛け16年。いよいよ完成したアマンヤンユンをご覧になって、どのようなお気持ちですか?


M:16年懸けた夢が遂に形になり、感無量です。先祖代々暮らしていた撫州から上海に出てきたのが、今から19年前の25歳のとき。この移築再建計画に着手したときは27歳でした。

村ごと移築しようだなんて、そんなクレイジーなことをする人がどこにいますか? 僕しかいませんよね(苦笑)。若かったからできました。44歳の今の私なら絶対にしません(笑)。でも、単に村と楠の森を移築するだけではなく、アマンと出会ったことで、文化遺産的なリゾートとして生まれ変わった姿に、本当にワクワクしています。

――家庭画報読者の方に向けてメッセージをお願いします。


M:アマンヤンユンにおいて、古代から受け継がれているお茶、お香、カリグラフィーといった中国文化体験を満喫していただきながら、新しい中国も楽しんでいただけることを願っています。

築約400年の伝統家屋にステイできるこの場所、ここの空気、カルチャーを好きになっていただければ嬉しいです。50代が主な読者層だとお聞きしていますが、そこからは人生をもっとも楽しめる世代ですよね。このアマンヤンユンにて、新しい冒険にぜひ挑戦してみてください。

たった1人で移築計画を始めた17年前。27歳の情熱が実現させた奇跡


「後世に暮らしを、文化を継承したい」というマ・ダードン氏の熱い想いがきっかけとなり、ひとつの村ごと、森ごとの移築再建という壮大なスケールで造り上げられたアマンヤンユン。

ほかのアマンとも違う、リゾートホテルでもなく、シティホテルでもない。世界のどこにもないホテルです。悠久の時を越え、建物も文化も受け継がれていくアマンヤンユンにきっと足を運んでみたくなるはず。

私も滞在中にお茶とお香の授業を体験してみましたが、明朝、清朝時代のエリートたちと同じように金絲楠の家具に囲まれて学ぶ時間は、いにしえの時代の息吹を感じることができる、アマンヤンユンだからこその意義深いひとときでした。次に訪れる機会があったら、今度はカリグラフィーと古琴にチャレンジしてみたいと思っています!

上海郊外にある3万250坪の敷地に広がるアマンヤンユンで金絲楠の香りに癒やされながら、心に潤いを与える文化体験ステイ。寛ぎと知的刺激をともに味わえる、そんなご旅行もときにはよいかもしれません。

小松庸子/Yoko Komatsu

フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。
撮影/阿部 浩 取材・文/小松庸子
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