旬を愛でる花旅・庭めぐりとは…毎週水曜日は、ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが“今が旬”の花の名所情報をお届け。今回は夏のイングリッシュガーデンを彩るユリの花をご紹介します。
旬を愛でる花旅・庭めぐり(43)真夏の庭に咲くクールビューティ、ユリを愛でる〜群馬・アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン
切り花では永遠の定番ともいえる‘カサブランカ’。地面に咲いている姿を見るのはとても新鮮。しかもこれは豪華な「ダブルカサブランカ」!猛暑の地でも涼やかに咲くユリに驚く
ユリの花の名所と聞くと、涼やかな高原のイメージを思い浮かべませんか。ところが猛暑で知られる群馬県太田市にある「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」でもいま、ユリの開花のピークを迎えています。例年なら開花時期の異なる品種が、初夏から8月いっぱいまで咲き続けるのですが、今年はとても開花が早いそうで、ぜひお早めにお出かけください。
ユリには多くの園芸品種がありますが、オリエンタルハイブリッドとアジアティックハイブリッドの系統に大別でき、このほかにテッポウユリやササユリなどの野生種があります。系統によって、また品種によって花期は異なるのですが、それを上手にリレーさせると、5月中下旬~8月まで咲かせることができます。
とくに涼しい気候を好むわけではないのですが、日本に自生するユリが野山で咲いているので、ユリといえば涼しい高原を連想される方が多いのだと思います。
オリエンタルハイブリッド‘のサーモンスター’。白地にオレンジ色の筋と斑が入る姿はエレガントで軽やか。まるで元気なプリンセスのよう。こちらもオリエンタルハイブリットの‘デイジー’。白地にくっきり赤い筋が入る個性的な品種。エレガントながら、ちょっとスポーティな雰囲気もあって素敵。それにしても群馬県太田市といえば、夏の最高気温の高さで話題にのぼる館林市のすぐ隣。40℃を超える日がある暑い気候の中で、ユリが咲いている景色はなかなか想像できないと思います。
「アンディ&ウィリアム ボタニックガーデン」はイギリスの大きなカントリーハウスにある伝統的な庭を模した本格的なイングリッシュガーデンです。初夏に咲く宿根草とバラが終わると庭の見所は極端に少なくなってしまうことを懸念したガーデナーさんたちが、何とかお客様に満足していだたける主役の花を加えたいと考え、少しずつ増やし続け、いまでは50種近くのユリが見事な花を咲かせるようになりました。
鳩小屋がフォーカルポイントの「ダブコートガーデン」に咲くシックな赤紫のユリ。バラが咲いていた時期の景色とはまた異なる涼やかな美しさが楽しめる。ユリというのは本当に存在感のある花ですね。目に映る景色の中にユリが咲いているとパッと目立ち、自然にそちらに足を向けてしまうのです。そして、間近で眺め、そのエレガントな姿と香りに魅了され、しばらくその場を立ち去れなくなります。
純白のダブルカサブランカが華麗に咲く姿に惚れ惚れ
ユリの中でもとくに人気の高いのが‘カサブランカ’ですが、切り花ではよく見かけても庭に咲いている姿を目にする機会はなかなかないのでは?
‘カサブランカ’はオリエンタルハイブリッドで、6月〜8月が花期です。「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」ではちょうどいま、その‘カサブランカ’が咲いています。しかも、ここの‘カサブランカ’は純白の花びらが重なり合う豪華な八重咲き品種、いわゆる‘ダブルカサブランカ’です。
地面からまっすぐ立ち上がった茎に大きな花を凜として咲かせる姿には、この時期に咲くほかのどんな花をも圧倒する美しさがあります。まさに真夏のクールビューティ! 左に右に、と異なる方向に顔を向けて咲く様子はとてもナチュラルで、見ていると心が透くような気持ちよさが感じられます。
一重の‘カサブランカ’も清楚でエレガントだけれど、一度‘ダブルカサブランカ’を見てしまうと、このボリューム感、しかも純白の美しさが目に焼き付いて離れない。ピンク、黄色、シックな赤紫と、ユリの姿を追いながら広い庭を歩いているうちに、夏バテぎみだった心に透明な風が吹き込むような心地よさを感じるようになります。この庭には高木がたくさんあるので、暑さを感じたら緑陰で休憩しながらの庭歩きがおすすめです。
さて、この庭で真夏にユリがさくたん咲くのには理由があります。ユリの球根は普通、10月頃に植え付けるのですが、この庭では4月下旬、チューリップが終わるのを待って植え付けています。そこから芽が出て成長するので、開花時期も少し遅くなり、8月でもユリが楽しめるというわけです。なかには9月になってから開花するものもあります。
ただし、ユリの球根は湿度の高い場所で保管していると腐りやすいため、新潟にある球根生産農家できちんと湿度管理をしてもらっているのだそうです。一般の家庭ではできないので、皆さまは真似をなさらぬようにしてください。
ただし、翌年は通常どおりの開花期間に戻ってしまうので、真夏のユリをお客様に楽しんでいだたくために、毎年新たな球根を植え付けているそうです。ガーデナーさんたちの試行錯誤のうえから生まれた、真夏のユリのすばらしい景色をじっくりとご観賞ください。
下向きに花を咲かせ、花びらをくるっとカールさせる個性的な花姿のオニユリ。これが庭に咲いている景色はインパクトがあり、思わず走り寄ってしまう。オレンジ色のスカシユリと、よく似た色合いのガーデンアルストロメリアを組み合わせた景色。こういう花合わせはユリ園では見られない。アルストロメリアも切り花ではよく見かけるが、庭ではなかなか見かけない。これは庭で育てやすく改良された‘インディアンサマー’という品種。夏にしか見られない旬の美しさを見逃さないで!
さて、初夏ほど花が咲かないとはいえ、真夏のイングリッシュガーデンにはユリのほかにも夏ならではの魅力的な花が咲いています。高い位置に赤い大きな花を見つけたら、それはタイタンビカス。アメリカフヨウとモミジアオイの交配種で、日本で生まれた園芸品種です。
7月〜9月が花期で、花径は15〜25cm。子どもの顔と同じくらいの大きな花を次から次へと咲かせます。この花は朝に咲いて夕方には萎んでしまう一日花。華やかに咲く花を見ながら命の儚さにいつも思いを馳せてしまいます。
ひときわ目立つ鮮やかな色、大きなサイズ。夏らしい大胆さがタイタンビカスの魅力。今日見た花は今日だけの命。でもご安心を。毎朝、新しい花が次から次へと咲き続ける。また、夏の庭の定番、ルドベキアもたくさん花を咲かせています。輝くような黄色の花はまさに夏色。夏の日差しを跳ね返すような力強さがあります。
連日の暑さで外出する気持ちも萎えてしまいがちですが、夏に咲く花の旬の美しさを愛でることができるのはいまだけ。見逃してしまうにはもったいない美しさが、「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」にはたくさんあります。
街中でもよく見かけるルドベキアも、夏の花との組み合わせからこんなに素敵なシーンに。花合わせの上手さ、ナチュラルさがイングリッシュガーデンの神髄。暑さに強いフロックス(手前のピンク花)やルドベキアが咲く小径は、両サイドに茂る木々が生み出す緑陰が心地よい。