旬を愛でる花旅・庭めぐり(45)サルスベリがこんなに美しく素敵な花だとご存じでしたか?〜神奈川・神奈川県立花と緑のふれあいセンター 花菜(かな)ガーデン
濃淡ピンクが入り混じるサルスベリの艶やかな景色。夏の暑さに負けずに花を咲かせるサルスベリは、これからのガーデニングを担う注目の花木。夏空に咲くサルスベリの溌剌とした美しさに元気をもらう
「サルスベリの花を見に出かけませんか?」とお誘いしても、「サルスベリならうちの庭で咲いているから」とか、「近くの公園で見られるから」など「結構です」と断られてしまう気もします。
それだけ古くから庭木として親しまれているサルスベリですが、あまりに身近にありすぎて、その存在価値が過小評価されているのではないか、と私は感じています。
かくいう私も、神奈川県平塚市にある花菜ガーデンに行くまでは、サルスベリに名所があることなど考えてもみませんでした。
そのときも決してサルスベリを目当てに出かけたわけではなく、夏の庭に咲く元気な花を見たくて出かけたまでです。このガーデンではどの季節にもたくさん旬の花が咲いて心ときめく景色が楽しめますので・・・・・・。
ところがエントランスを入り、目の前に広がる芝生のセンターフィールドを眺めると、その向こうが何やらとても華やかなことになっているではありませんか。
芝生のセンターフィールドを越えた先にある「枝百景の丘」にサルスベリの並木がある。何だか胸騒ぎ、いや胸のときめきを感じて足早に向かうと、そこには色とりどりの花を咲かせるサルスベリがあったのです。正直、サルスベリがこれほどたくさん植えられて、美しい景色をなしているのを見るのは初めてのことでした。
だから旬の季節が来たら、ぜひ「サルスベリを見に出かけませんか」と皆さまをお誘いしようと決めていました。
サルスベリの魅力を再発見できる楽しいコレクション
サルスベリの花色といえば、白かピンク。いえ、最近のサルスベリはすごいですよ。ごく淡いピンクから鮮やかな赤に近いマゼンタ(赤紫)、何とも涼しげな淡いラベンダー色やなかには濃いピンクと白が混じる複色の品種まであります。花菜ガーデンにはありませんが、黒葉の‘ブラックパール’という品種も登場し、黒葉に朱赤の花、黒葉に白花+真っ赤なつぼみ、というコントラストが強い個性的な花に驚かされました。
サルスベリ‘トント’の鮮烈な赤紫色は強く印象に残る。枝の先に大きな花房をつけて枝垂れる様子も風情がある。‘ドワーフ ライラック’は涼しげな花色が魅力。樹高がそれほど高くならない矮性品種なので、自宅の庭にも取り入れやすい。こんなさわやかな花色が夏の庭にあるとうれしい!全国にサルスベリの名所もありますが、いずれもお寺など建築物とのコラボレーションが夏らしい景色を生み出している場所で、花菜ガーデンのようにサルスベリの品種をコレクションしている所はほかにはないと思います。
猛暑もおかまいなしに咲くサルスベリの花には、その艶やかな花色で夏の暑さを跳ね返す力強さ、逞しさも感じられ、花を見ているだけで、夏バテしそうな体に元気が注がれていくような気分になります。
さて、サルスベリの花はアップで見てもとても素敵なんですよ。薄く透明感のある花びらは、リボンの端を細かく縫ってキュッと絞ったみたいな繊細なフリルが愛らしく、改めて考えるとこんな花形はほかには見たことない気がします。ひと房をブーケにして胸や帽子に飾ったら本当に素敵! いえ、あくまで想像ですので、花房を採るようなことはなさりませんように。
サルスベリの花をアップで見るとこんなにフリルが繊細!ふんわりとした花房なので、暑苦しさがないのも魅力。これからの夏の庭づくりを担う花木のひとつがサルスベリ
さて、これからの庭づくりを考えるうえで、一番課題とされているのが夏の庭です。これだけ猛暑が続くと、いままで日なたで咲いていた花も元気がなくなり、木陰などに移動する必要も生じてきます。
そんな中、耐暑性に優れ、日本の湿度の高さにも負けずに元気に花を咲かせるサルスベリは、個人の庭のみならず、街路樹や公共施設のエントランスなどでも利用の頻度が高まっています。
濃いピンクと白の複色品種はつぼみの赤も愛らしい。こんなサルスベリ見たことない!以前のサルスベリにはひとつ、うどんこ病にかかりやすいという欠点がありました。幹や葉が白く粉を吹いたようになっているサルスベリを見かけたことがある方も多いと思います。ところが最近のサルスベリは、ほとんどがアメリカで育種された品種で、うどんこ病への耐性が強くなっているのです。
この品種改良は、アメリカ国立樹木園で行われたのですが、改良の元になったのは、じつは日本の屋久島に自生していたヤクシマサルスベリ。ヤクシマサルスベリはうどんこ病に強い性質を持っていたのです。日本からアメリカに渡ったサルスベリが、魅力倍増して戻ってきた、というわけです。花菜ガーデンには、そのヤクシマサルスベリもあるので、品種改良の交配種であるその花をぜひご覧になってみてください。
さて、夏の花菜ガーデンにはサルスベリ意外にも見所があります。まずは、サルスベリのコレクションの先にある「尾根見の池」では温帯スイレンが涼しげに花を咲かせています。温帯スイレンの見頃は8月下旬までなので、お早めにお出かけください。
温帯スイレンが咲く「尾根見の池」には、真夏でも涼しげな気配が感じられる。暑さに疲れたら、池のほとりでひと休みを。花菜ガーデンには、サルスベリのほかにムクゲのコレクションもある。夏にふんわり大きな花を咲かせるムクゲも、耐暑性に優れた花木。ガーデンではルドベキアやサルビアなど夏の花が、ナチュラルに群れ咲いている景色が楽しめますが、野菜や果樹を栽培しているアグリゾーンにもぜひ足を延ばしてください。野菜の花の中でいちばん美しいと言われるオクラの花が、夏の間にたくさん咲きますので。ラッカセイのかわいい黄色の花やナスのしゃれた紫の花など、野菜の花には庭で咲く花とは異なる魅力があります。
アグリゾーンの野菜畑ではオクラが素敵な花を咲かせている。これは赤オクラの花。淡いクリーム色に花心はえんじ色というしゃれた色合わせが見事。オクラはアオイ科の野菜と聞けば、ふんわりと大きな美しい花にも納得。