質問に、言葉数少なく慎重に答える巳之助さん。「文字は残りますし、読む人によって受け取り方が違うので、色々な解釈ができるような発言はなるべくしないように心がけています」 ――ナルトとサスケに立ちはだかる強大な敵、うちはマダラ役は、市川猿之助さんと片岡愛之助さん(交互出演)です。
「すごくありがたいことだなと思っています。座頭の役者であるお兄さん2人が出てくださるなんて。ポスターのビジュアルを見ただけでも、お2人がマダラというキャラクターを、それぞれの感覚で、掴んで撮影に臨んでくださっているのがわかるので、その気持ちもありがたいですし、本当に心強いです」
――漫画と歌舞伎のコラボレーションについては、どう思われますか?
「歌舞伎はもともと、その時々の時代を映し、その時々の流行物を取り入れていったことで、どんどん演目が増えていったものです。その精神というのが今、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』や『NARUTO‐ナルト‐』という形で、世に出ているんじゃないかと思います」
――歌舞伎にもなじみのある様々な伝承に材を得て描かれているだけに、『NARUTO‐ナルト‐』の世界観は、歌舞伎と相性がよさそうです。
「そうですね。とはいえ、国や時代を特定できないような独特の世界観は、『NARUTO‐ナルト‐』の魅力の一つ。歌舞伎と相性がいいからといって、単純に歌舞伎に寄せてエイッとやればいいということでもないだろうなと、僕は思っています。そこは、もともと歌舞伎がお好きで、こういうふうにしたらどうだろう?というアイディアをたくさん出してくださるG2さん(脚本・演出)にも、お伝えしているところです」
――スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』を経験したことで、ご自身の中で変化や成長を感じた点はありますか?
「実は、僕自身の実感としては、あまり変化も成長も感じていないんです。もちろん、僕の個人的な知名度であったり、観に来てくださるお客様の数という点では、『ワンピース』にもらったものの大きさを感じていますけれど。というのも、歌舞伎を新たにつくっていくうえで必要なのは、新しいものを身につけてゆく作業ではなく、自分が今まで培ってきたものの引き出しをいかに開けられるか、という作業なので」
――それは具体的にはどういうことでしょう?
「誰もやったことのない役や芝居をやる時は、新しくつくっていく作業になるので、自分の中から何かを出してゆくことになります。逆に古典歌舞伎を演じる場合は、既につくられている、でき上がったものを自分の身につけていく作業になるので、新作と古典では、作業としては全く真逆のことをしていると僕は思っています」