かつお節がズラリと並ぶ
『京の食べもの歳時記』、『ほっこり京ぐらし』(淡交社)などで、大村しげさんがかつお節の名店として紹介したのが「田邊屋」です。天保元年(1830年)に土佐出身の山内宗三郎が開業した山内商店を起源に、創業以来、かつお節や乾物、鶏卵を扱うお店として料理人から主婦にまで愛されています。
『京の食べもの歳時記』には「本節の粉がつおがある。煮物のなかへちょっといれると、お味がぐんとようなるし、でんぶにしたら最高である」と、粉がつおについての記述がありました。粉がつおはいまも「特撰 本鰹粉」の名で売られています。
「特撰 本鰹粉」特上品の本鰹枯れ節を削って粉にしたものです。冷ややっこやおひたしにふりかけたり、煮物に少し入れるだけで風味が増す一品。35g 480円(税込み)かんぶつマエストロである田邊屋女将の山下由美子さんによると、使い方はいたって簡単でした。「鰹の香りと味わいが独特です。『煮物の仕上げに、またごはんの上に掛けてもよい』と大村しげさんは書かれていました。お味噌汁の温め直しのときに入れるのもいいし、お出汁をそれほどしっかりとっていなくても、ふれば風味が出ます。お料理に詳しくない方でも、これひとつで味がおいしく決まります」(女将)。
大村しげさんは本鰹粉を買って、でんぶを手作りしていました。そこまでの手間はちょっと……という方もご安心を。田邊屋特製のかつおでんぶが販売されています。50g 500円(税込み)泣く子も笑う本鰹粉
特撰 本鰹粉は子どもにも好まれていて、ぐずっていた子が本鰹粉のかつおごはんを食べたら機嫌が良くなった、なんてエピソードもあるとか。カルシウム豊富な粉だけに、骨が丈夫になるのも嬉しい点です。お客様の中には「子どもがこの粉のおかげで骨太で立派になった」と親子2代にわたる愛用者も。
店頭に並ぶ、かつお本節。表面のカビ付けを取り除いた状態なので、すぐに削って使うことができます。価格は1本3000円台が中心。ここで、かつお節の基本について、店主の山下尚志さんに聞いてみました。
「かつお節には近海ものと南方ものの2種類があります。前者は一本釣りされたもので本鰹粉に使用。後者はインド洋などで網を使って捕り、主に出汁用になります」。南方ものが削る前のいぶしただけの荒本節なのに対し、近海ものは身を成型して骨を手作業で抜き、表面を磨き、カビを表面に付着させるなど処理が異なります。また、近海ものは一本釣りのため、魚同士の接触による身の傷みが少ないのも特徴です。
お出汁に味わいが足りない。ちょっとご飯にふりかけるなにかを作り置きしてあれば便利。そんなときは、特撰 本鰹粉の出番です。京女の知恵に頼って料理にサッとふりかけたり、でんぶを作ったりすれば周囲にきっと喜ばれるに違いありません。他にない京都土産としても面白いのではないでしょうか。
Information
田邊屋
京都府京都市中京区錦小路通高倉東入る中魚屋町506
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたwebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/ 取材・文/川田剛史 撮影/中村光明(トライアウト)