視覚障害者の半数は高齢者。加齢に伴いリスクは高まる
2017年12月に開院した神戸市立神戸アイセンター病院は、隣接する神戸市立医療センター中央市民病院の眼科と先端医療センター病院の眼科を統合し、眼の病気に特化してつくられた専門病院です。
神戸市の中核病院として眼科領域の治療を担うとともに、同じ建物にある理化学研究所の網膜再生医療研究開発プロジェクトと共同し、iPS細胞治療の臨床応用など最先端医療の開発にも取り組んでいます。
※神戸アイセンター病院HPを参考に作成さらに、治療を行っても視覚に障害が残った人に対してロービジョンケアやリハビリを展開し、社会復帰を支援しています(上の図参照)。
視覚障害の原因となる主な病気には、加齢黄斑変性、白内障、糖尿病網膜症、緑内障、屈折異常(病的近視)などがあり、大半は途中から眼が見えなくなった人です。
日本眼科医会の報告書によると、2007年現在、視覚障害者は全国で164万人おり、そのうち失明者(よく見えるほうの眼の矯正視力が0.1あるいはそれ以下)は18万8000人、ロービジョン者(よく見えるほうの眼の矯正視力が0.1以上0.5未満)は145万人と推定されています。
視覚障害者の半数は70歳以上の高齢者で、60歳以上を含めると全体の七割を占めます。高齢化に伴い、何らかの視覚障害を持つ人は今後も増加し、2030年には200万人になると推測されています。つまり、視覚障害は他人事ではなく、年をとるほど誰にでも起こり得る身近な問題なのです。
このような医療的背景がある中、同病院では「デジタルビジョンケア外来(通称iPad外来)」を開設し、デジタル機器を使った新しいロービジョンケアを提案しています。
視覚障害者が何を望んでいるのかを 丁寧に聞き取り、ニーズを引き出す
この分野の第一人者として知られる担当医の三宅琢先生は、「一般外来でiPadを使って説明していたことがこのサポートの始まりです。多くの患者さんから見やすいという声が上がったのと、iPadに話しかけるとメールを送信したり、読みたい文面にiPadをかざすと文字を読み上げてくれたりするなど便利な機能を持つアプリが開発されていることを知りました。
残された視機能を強化する従来のロービジョンケアとは異なり、個人の視機能とは関係なくアプリの機能で必要な情報を入手するアプローチに大きな魅力を感じたのです」ときっかけを語ります。
ところが診療活動を行う中で、三宅先生はデジタルビジョンケアに興味を示す人とそうでない人がいることに気づきます。
「デジタル機器を使うことは手段にすぎず、大切なのは、その人が何をしたいのかを丁寧にヒアリングし、ニーズを引き出すことだったのです」。
視覚障害者の多くは“見えなくなった”ことに気持ちを引きずられ、生きる意欲や目的を見失いがちだといいます。
しかし、「見えなくても自分のやりたいことはできるのです。それは情報の取り方さえ変えれば可能だということにデジタルビジョンケアを通して気づいてもらいたいのです」と三宅先生は狙いを語ります。
そのため、同外来では話し合いに十分な時間をかけ、ニーズを把握したうえで、それを実現するために役立つアプリを選択し、実際に使ってもらいます。そして、その人がアプリに価値を見出し、ニーズの実現に向けて行動できそうであれば同外来でのサポートは終了します。
その後は「新しい出会いや体験によって、さらに可能性を広げられるようビジョンパークの利用をおすすめしています」(三宅先生)。