“あの場所に行くと元気になれる” 空間の力を利用して治す・癒やす
「ビジョンパーク」とは、病院のエントランスに設置されている出入り自由のロービジョンケアフロアのことで、世界で初めてiPS細胞による再生網膜移植手術に成功し、実用化に道筋をつけた髙橋政代先生(理化学研究所網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー)や三宅先生が理事を務める公益社団法人ネクストビジョンが運営しています。
このビジョンパークを設計する際、ヒントになったのが、三宅先生が東京大学先端科学技術研究センターで視覚障害者を対象に開いている“Gラウンジ”というデジタルビジョンケアの集まりです。
「最初は僕が一方的に教えていたのですが、そのうち参加者同士でいきいきと教え合うようになり、彼らが提案する工夫の中には健常者にも役立つものが多々ありました。専門外来での対応人数には限りがあり、医療サービスとして成り立ちにくいことも感じていたので、Gラウンジの活動を通して“あの場所に行くと元気になれる”という空間を提供し、そういった空間で治すことの大切さを痛感しました」(三宅先生)。
心の動きに応じて空間を分け各エリアに目的を持たせる
弱視者を主な対象としたビジョンパークには既成概念を打ち破るさまざまな仕掛けがあります。その一つが視覚障害者の心の動きに応じて空間を分け、各エリアに目的を持たせていることです。
「治療法がないと告げられて気分が沈んでいる人には日光や自然音に癒やされるリラクゼーションエリアを、少し元気が出て情報が欲しくなった人には心が豊かになれる書物や生活に役立つ視覚補助具などを展示したリーディングエリアを、もっと元気が出て活発に動きたくなった人にはボルダリングやヨガを楽しめるアクティブエリアを用意しました」(三宅先生)。
さらに、感情のレベルに応じて階段を上っていくようなイメージで、これらのエリアには高低差をつけています。視覚障害者の施設では、ないことが望ましいとされる段差ですが、弱視者が外では使いにくい白杖を試せる場にもなっています。
「ここには豊かな経験と知恵を持つ視覚障害者たちが集っています。ロービジョンケアが必要となり不安を抱えている人には、こうした先輩たちと触れ合うことで生きる力を取り戻し、新たな人生の一歩を踏み出してほしいと思います。また、一般の人も楽しめる空間なので、気軽に訪れていただき、視覚障害者の本当の姿を知ってください」と三宅先生は話しています。