京巻きとはどんな巻き方?
毎朝7時30分頃から、三木鶏卵のだし巻き作りは始まります。どのように作られるのかを見学すると、巻き方にも特徴がありました。専用の鍋を使い、だしを混ぜ合わせた卵を手前から奥へ素早くクルリ、クルリ。柔らかく仕上げるために強い火力で焼いているのに、焦げつかないのは素早く巻ける職人技があればこそ。三木鶏卵では手前から奥へと巻いていて、これを京巻きと呼びます。
一方、奥から手前に巻くものは「大阪巻き」と呼ぶのだとか。「自分が納得いくだし巻きができるまでに、2年かかりました」とは、だし巻き職人でもある広報担当の河野小百合さん。
専用の鍋は刃物や料理道具で知られる有次のものを使用。具材を入れた鍋の重さは2kgほど。この道、約17年というベテランの職人さんは軽々と鍋を扱います。焼き上がった、だし巻きは、巻いた後、木の枠に入れます。「型を決めることで冷めても味がしっかりして美味しさが保たれます」(河野さん)。だし巻きが年末に売れるワケは?
通年販売されている人気商品のだし巻きが、一番売れるのは年末。お節料理にだし巻きは欠かせないとあって、年末は1日約1000本が作られます。河野さんによれば、お盆の帰省時期にもたくさん売れるとのこと。「郷里の味でもてなしたい」「帰省したときしか食べられないから」と、お盆に買い求める人が増えるのも、三木鶏卵が京都に根付いている証しではないでしょうか。
大村しげさんが紹介した、もう1つの名品「錦糸卵」は、15年ほど前から注文生産のみになりました。1枚120円(税込み)で最低30枚からの注文のため、いまでは業務用がほとんどです。
だし巻きは大(1100円)、中(700円)、小(480円)の3サイズのほか、だしをふんだんに使用した特上(1360円)などがあります。※すべて税込み。店頭でユニークなパッケージの商品を見かけました。こちらが現在、三木鶏卵で人気の黄味餡ぱん。「だし巻きは甘くないので、お菓子のようなものが作れないか? もちろん、卵入りで卵のおいしさを伝えたい」との思いから約10年前に生まれました。ふわふわのパンに甘さ控えめの黄味餡のマッチングは絶妙です。
黄味餡ぱん(1個170円、税込み)のほか、一口サイズが5個入った小玉黄味餡ぱん(1箱450円、税込み)があります。創業以来、だしと巻き方に情熱を注いできた三木鶏卵のだし巻き。買って味わうだけでなく、自分でだし巻きを作る際には、手前から巻く京巻きに挑戦してみるのも面白いのではないでしょうか。
Information
三木鶏卵
京都府京都市中京区錦小路通富小路西入る東魚屋町182
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたwebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/ 取材・文/川田剛史 撮影/中村光明(トライアウト)