「ツケが入って見得が決まる “カッコよさ”は漫画ファンも共感しやすい歌舞伎の魅力だと思います」
所作の美しさとよく通る声で、芝居でも舞踊でも、観客に鮮やかで心地よい印象を残す、坂東巳之助さん。
10歳の頃に第1巻を手にして以来のファンだという人気漫画を原作とした新作歌舞伎『NARUTO –ナルト-』で、この夏、主人公のうずまきナルトをつとめます。
巳之助「今回の舞台は、全72巻ある原作の物語の全編を通します。もちろん出て来ない場面やキャラクターもありますが、(脚本・演出の)G2さんが原作をよくご理解された上で構成しているので、ナルトとサスケの物語に焦点を絞ってギュッとまとめた、面白い作品になりそうです」
落ちこぼれ忍者であるうずまきナルトの成長を描いた原作は、歌舞伎とも親和性が高いのではないでしょうか?
巳之助「忍者の話といっても、原作のうずまきナルトは金髪に青い目。テレビやカップラーメンも登場して、いつの時代のどこの国の話なのかよくわからない設定ですからね。衣裳もオレンジのジャージだし、『NARUTO』の世界が、そのまま歌舞伎かというと、そういうわけでもありません。でも、歌舞伎の児雷也とは字が違いますが、ナルトの師匠の名前が自来也だったり、隈取をしたキャラクターが登場したりするので、僕と同じく原作ファンの(中村)隼人くんは、以前から『NARUTO』と歌舞伎の共通項を感じていたようです。僕は元々、歌舞伎の見得とマンガの決めカットは同じような役割を担っていると思っていて、『NARUTO』はツケが入って見得が決まる場面がイメージしやすい漫画だとは思っています」。
現代のエッセンスを取り入れた芝居でも、歌舞伎役者が練り上げ、演じることによって新作歌舞伎になる。“歌舞伎”とは一体、何なのでしょうか?
巳之助「歌舞伎とは何なのかを考えるよりも、むしろ歌舞伎でないものは何なのかを考えた方が早いかもしれないですね。他のジャンルの舞台で、歌舞伎役者でない役者さんがツケに合わせて見得をしたり、三味線の音楽が流れたりしても、それはたぶん、歌舞伎には見えない。僕ら歌舞伎役者が培ってきた引き出しの中から演じることで“歌舞伎”として観ていただけるし、“歌舞伎”を名乗れるのかもしれません。ひと口に“歌舞伎”と言っても時代物、世話物、舞踊など色々なジャンルがありますし、“歌舞伎とは何か”と言われても、正解は、自分でもまだわかりません」。