いまもおくどさんで炊く自家製あんこ
中村軒の人気の理由にあんこの美味しさが挙げられます。あんこは自家製で、作っている様子を見学して驚きました。なんと、いまもおくどさん(かまど)に薪を燃やして炊かれているのです。ガスでは最適な火加減にならないため、薪を使用していて、火持ちの良さと絶妙な火力を得るためにくぬぎの薪と決めているとのこと。また素材は北海道産の上質な小豆を選んでいます。こうした熱意が美味しさの秘密といえましょう。
上質な砂糖とゆで上がった小豆を窯で混ぜ合わせて炊きます。職人がつきっきりで火加減を見ながらの作業です。十五夜には月に願い事を
大村しげさんは次のようにも書いています。「お月さんにはおだんごと、子いもと、すすきを備えて、わたしはいつも願い事をする。どうぞ日々変わりがございませんように、と」(『冬の台所』冬樹社)。
毎年、中秋の名月を欠かさないという方は、めっきり少なくなってしまったのではないでしょうか。今年の十五夜は9月24日。風流に月を眺めるもよし、「花よりだんご」で月見だんごをパクつくもよし。楽しみは人それぞれですが、家族や友人と集まり、彼女のように願い事をすれば、きっとお月見が新鮮に感じられるはずです。
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたwebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/ 取材・文/川田剛史 撮影/中村光明(トライアウト)