産業革命以降。大衆とジュエリー
18世紀半ばに英国から始まった産業革命。この革命が人々にもたらした最大の変化は「普通の人が富裕になれる」ということでした。蒸気機関の発明によって鉄道や蒸気船などが生まれ、海外との交易が増えるに従って、鉄道、海運、銀行、商社、保険会社、旅行会社など、普通の人々が自らの手で事業を起こし、ひとたび成功すれば莫大な資産を手にしたのです。
この流れを最初に掴んだのが英国で、他国よりも100年前後も早いものでした。産業革命により英国の黄金時代「ヴィクトリア時代」が到来し、同時に新しく生まれた富裕層「成金」たちの時代が始まります。
『Jewels and trinkets』Giafferri, Paul Louis/ The New York Public Library
ジュエリーの歴史としても、産業革命は大きな転換期です。いつの時代も新しく金を手にした人がすることは同じです。彼ら成金は、家族のため愛人のために、大金をはたいてジュエリーをたくさん買うようになります。今日「アンティークジュエリー」として新しいジュエリーとは別のマーケットで売買されるものの多くはこの時代のものですね。
「ジュエリーはお金持ちのもの」というのは歴史的にも誤解である
そしてここから、「ジュエリーとは、金持ちの遊びである」という誤解が広まっていきます。これは言い換えるとジュエリーが大衆化したということですが、それにより多くの、安価ではあるが内容のないジュエリー(!)が作られては売られていきました。
この流れは今日まで続いていて、それはすなわち、ジュエリーについての誤解も依然として存在していることを意味しています。
Georges Fouquet制作のペンダント(20世紀)/DeA Picture Library/アフロ
しかし、最初のほうでも述べた通り、ジュエリーとは本来“美しいもので身を飾りたい”という人間の本能に近いところから生まれたものです。だからこそ長い人類の歴史の中で、ほとんどすべて時代、すべての民族がジュエリーを使ってきたのですし、今日まで存在してきたのです。