演出のキーワードは声!? 監督の耳と気持ちに刺さる声と刺さらない声
濱口監督は「よく“声”っておっしゃるんです」と東出さん。本作では、抑揚をつけずに何百回もセリフを稽古し、本番直前も現場で本読みをしたといいます。
「今の声はよかった、今の声は届かなかった、ということをよくおっしゃっていて。自分は、監督の楽器として声を出しているだけで、そこに作為はないつもりなのに、いい声、届かなかった声ということをおっしゃる。監督は目を閉じてずっと本読みを聞いていて、抑揚を抜いているのに聞き分けられるというのは非常に面白かったんですけれども、濱口監督の耳と気持ちに刺さるか否かという、この要求はものすごく高かったように思います」
監督の耳と気持ちに刺さっているかどうか、東出さんは「正直、やりながらなかなか実感を抱くことができなくて」といいます。でも……。
「OKが出て、カメラ位置を変えてもう一度同じ芝居を、となったときに“動きをつなげようと思わなくていいです。さっきのOKテイクは忘れてください”ってよくおっしゃっていて。それは博打のようでもあるんですけれども、そのときに生まれる芝居の“ナマモノ”を信じていらっしゃるんだなと感じました。で、仕上がった作品を観て、“あ、僕ってこんな声を出すときがあるんだ”って発見があって。それをお伝えしたら、“そういうことです”とおっしゃってました」
知らなかった声を本作で東出さんが発見したように、共演の唐田えりかさんも「完成した作品を観て、知らない自分だらけで」と言う。