確かな腕前を認められた局屋立春
大村しげさんの著書を読み返すと、知名度に左右されず、自分の舌で間違いがないと感じた料理やお菓子を紹介していることに気づきます。また、名店でもすでに十分に名の通ったお店は避けて、知る人ぞ知る存在を好んで書く傾向もありました。彼女に近しい人によれば、大成しているものについては「私が今さら書くまでもない」との考えがあったとか。
そんな大村さんが局屋立春を気に入ったのは、お店に確かな実力があったからにほかなりません。それもそのはず、初代店主は、銘菓「きぬた」で名高い長久堂に17年勤め上げ、独立した方でした。『とっておきの京都』では「腕は十分確かな方である」との一文も見受けられます。
いま、銘菓「しぐれ路」は?
残念ながら先代は2008年に亡くなり、現在は息子の和都さんが2代目店主として活躍中。第26回全国菓子大博覧会では栄誉大賞を受賞しています。ところが、2代目によると、のちに納得のいく求肥を作る素材が手に入らなくなってしまったため、「しぐれ路」を作るのを断念せざるを得なくなったそうです。
作られなくなって久しい「しぐれ路」。しかし、大村しげさんが、それほどまでに愛したお菓子と聞けば、食べたくなるのが人情です。
そこで、今回、本連載のために時代に合わせた形にアレンジした、2代目版の「しぐれ路」を作ってもらうことができました。予約制で読者の皆さんも注文ができます。
こちらが2代目版「しぐれ路」。1個110円(税込み)。1週間前までに要予約で注文は10個~。別途箱代108円(税込み)が必要です。4月と11月は繁忙期のため、注文は受け付けていません。持ち帰りのみ。常温で4~5日間、日持ちします。かつては求肥だった皮を、いま局屋立春で評判の黒糖わらび餅に置き換えることで銘菓がリバイバル。わらび餅の滑らかな舌触りと上品な甘さのあん、きな粉の風味は絶妙です。彼女が気に入っていたという、食べやすい一口サイズは当時のまま。
「しぐれ路に思いを寄せて、雨の清水へ、ふっとさそいとうなった」(『とっておきの京都』)が、紹介の締めくくりの言葉でした。誘いたくなったのが、友人なのか、読者なのかはいまとなってはわかりません。でも、記述から数十年を経て、私たちがこの一文に誘われて、清水寺と局屋立春を訪れてみるのも、一興ではないでしょうか。
Information
局屋立春(つぼねやりっしゅん)
京都府京都市東山区五条橋東6‐583‐75
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたwebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/ 取材・文/川田剛史 撮影/中村光明(トライアウト)